学んだことを新しい状況下で適用させることのできる力の育成に向け,A校・B校のそれぞれで,単元を通して学んだ科学的なきまりや性質等を適用する場を設定した。このような適用させる学習をくりかえし行うことで,科学的な思考力・判断力・表現力等のさらなる育成を目指した。 (1)第4学年「わたしたちの体と運動」における実践 <学習のねらいや手立て> 160 T それぞれの主張に対する理由が納得いくものかグループで交流しましょう。 C1 受粉させないと実ができてないし,受粉させたら実ができたんだから,(アサガオが実を作るためには)受粉は必要だよね。 C2 私も実ができるには受粉が必要だと思いました。 C3 でも,受粉させても実ができないのは何で(だろう)? C1 えっと。 C3 そっか。もしかしたら,(受粉させても実が)できる場合とできない場合があるんじゃない。 C2 あー。そうだ。 C4 じゃあ,アサガオの実をつくるために,受粉は必要だけど,必ず(受粉させても)実ができるわけじゃないね。 とめるようにした。他者の意見を聞くことで,思考を広げたり深めたりできるようにするためである。このグループでの話合いの様子を以下に示す。 このグループは学習でねらいとしていた受粉すれば必ずしも結実するわけではないことに,既習内容に関連させて到達している様子が分かる。本学級には8つのグループがあったが,このグループだけが指導者のねらいとするところに自ら到達していた。このことを指導者は机間指導の中で把握していた。そこで,全体交流の場で多くのグループが「アサガオの結実に受粉は必要」という主張をしたことを受けて,「受粉させたのに実ができていないアサガオもあるけれど,アサガオの実や種子ができるのに受粉が必要だと言えるかな」とゆさぶるような問いかけを行った。子どもたちが指導者の問いかけに対し,どのように解答したらよいか悩んでいる中,上記の話合いをしたグループに発表をさせた。このグループの意見を聞いた多くの子どもらは,既習内容である植物の発芽実験で条件がそろっていても発芽しない場合があったからと理由に加え,結実に受粉は必要だが,必ず結実するわけではないということを理解することができた。その後,学習をまとめる場面では,子どもの意見をつなぎ「アサガオは受粉すると実や種子ができる。しかし,受粉したら必ず実や種子ができるわけではない」とまとめた。このようなまとめは指導者がねらっていたことであり,ねらいに到達した要因としてゆさぶる問いかけにより思考を促し,意図的に発表順を設定したことで既習内容をつなげて科学的な根拠に基づく,より深まった思考・判断・表現が学級全体でできたと考える。 小学校 理科教育 14 第3節 適用する力の育成に向けて 本単元では,人の体には骨や関節,筋肉があることを理解し,それらが関係し合って曲げたり伸ばしたりなどの運動ができることを理解する。このような学んだことを身近な哺乳類にも当てはめて考える場面を単元末に適用場面として位置づけた。このとき,科学的な思考力・判断力・表現力等の育成を目指す視点から理科における見方・考え方を適切に働かせる必要があると考えた。そのため,複数の哺乳類を観察することで,体のつくりや動きについての共通性やある種の動物だけの特徴としての多様性といった見方を働かせることができるようになると考えた。複数の動物が観察できるよう京都市動物園に依頼し,協力して実践することとした。そして,共通性や多様性といった見方を適切に働かせるためには調べたことを比較する考え方が必要である。このように,複数の動物を観察することや調べたことを比較することで,理科の見方・考え方を適切に働かせることができる手立てとする。また,調べる際には,これまで同様,事実や証拠に基づいて,理由を加えながら主張することのできるワークシートを用いることで科学的な根拠に基づいて表現することのできるように手出てとする。しかし,今回は動物の動きを観察したとき,足の動きや首の動き,腕の動きなど様々な事実や証拠が挙げられ,それぞれの動きがどうしてできるのかを理由を加えながら主張していく上で,2章第1節(2)に示した関係図のような形で記述すると,整理しづらくなると考えた。そこで,事実や証拠,理由,主張を矢印でつなぐ方式で記述することで,多様な調べ学習ができるようにした。次頁図3-7に子どもに配布し,示した書き方の例を示す。 <授業の実際と子どもの様子> 授業では,まず,学級では「人と比べて,動物はどのような仕組みで動いているのだろうか。」と
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