↓最初 図4-3 生徒O 最初と最後の記述の変化 いる。最後の記述は理由までしっかりと記述されており,比較する意識が強く表れていることも分かる。他の生徒も同様で,最初と同じ条件で書いているが,最後の記述ではA校B校共にほとんどの生徒が,「~という見方もできるかもしれないが」など異なる見方を取り入れたり,根拠や理由づけを重ねたりする記述が見られるようになった。さらに,例示した生徒の記述から,単元目標の達成に近づいていることがうかがえる。『扇の的』の単元目標は「場面や登場人物の言動に注目しながら読むことを通して,登場人物の価値観と自分の価値価値観を照らし合わせ,作品を味わう」ことであった。生徒Oの記述からは,それぞれの言動から義経の価値観を「勝ち方にこだわる」,敦盛の価値観を「負け方にこだわると」と考え,自分の価値観は義経に近いと判断していることが分かる。このような記述は他の生徒にも見られ,単元目標は概ね達成できたと考える。 このような変容を生徒自身が単元終了後の自己評価の場面において,どのように自覚していたの か以下に紹介する。 ■学習を終えて,最初『扇の的』を読んだときは深いと ころまで分かっていなくて,敦盛が絶対魅力的だと思っ ていたけれど,義経について読み取ると,武将としても 人としてもいいんだと分かりました。だんだん調べてい くともっと良いところが見つかり,最初とは真反対の考 えになりました。私は,最初義経の悪いところばかり見 て,そのまま読み取っていたけれど,悪く見えるところ も全体を読むと違う方向に変わっていくと思いました。 140 図4-2 単元学習終了後の自己評価シート Seito ないからである。このように過程を意識した文言 とすることで,生徒の主観である自己評価を教師が客観的に見られるのではないかと考える。 また,項目の四つ目に設定しているように,多少の記述も必要であると感じている。その際,どのような記述があればよいのかという視点を教師がもっておくことと,その視点を生徒にどのように与えるのかということも重要である。図4-2の4は,「古典文学である」という一言が生徒に与える視点である。現代とは異なる古典の世界に触れることで学んだことを記述する意図を反映している。そうすることで,次頁左で例示した生徒たちのように,今と昔の感覚や価値観の違いについて,自分はどのように考えたかということを通して,その教材で学ぶ意義を実感することもできるのではないかと考える。記述をする際,一時間ごとの自己評価を参考にするよう促すことで,各時間同士にもつながりが生まれ,単元最後の自己評価において各時間の学びも生きてくると考える。さらに,後半には,どのような変化があったかという文言を加えているが,これは昨年度の研究においても大切にしてきた部分である。今年度の研究においても,右上図4-3生徒Oのような変容が見られた。 生徒Oは,義経と敦盛は同じようにプライドを もっているが,「勝つことへのプライド」と「潔く負けることへのプライド」と両者の違いを比較し, 前者に軍配をあげるという自分の考えをまとめて 中学校 国語科教育 16 最後↓
元のページ ../index.html#18