(下線は筆者による) 義経の魅力を述べるにあたって,教科書に書いてあることを根拠としていることが分かるが,「~頁に…」という発言に対して,相手側の生徒も聴衆の生徒も一斉に教科書の該当箇所を探す様子も印象的だった。また,班での対話においても「ここにこう書いてあるから…」「どこから分かった?」と常に根拠を探しながら話し合いを進めていく様子が見られた。 この学級の討論では,「敦盛は心も美しい」という主張に対して,聴衆から「心が美しいとどこから分かるのか」と問われ,「戦場でも笛を持っているから」と答えていた。例示した理由を述べた生徒は,このやり取りに納得がいかなかったのである。的を射た指摘であり,理由づけの根拠としてつながりが薄いことを全体でも共有できる場面であると感じた。今回の実践では,このような場面を国語通信の中で取り上げ,生徒と共有した。これらの学習活動を繰り返していく中で,根拠をもとに理由づけし,自分の考えをまとめていく力も養われていくのではないかと考えている。 (2)自己評価シートの活用 136 らに,仲間を信頼しています。P134のL11に…」 っていたらなんできれいな心なのか分かりました。」 T「うん,なるほど。根拠として弱いってことだね。」 動している様子として,以下に,討論の一場面を紹介する。 最初の主張「義経班」 「…まず自分よりも仲間思いで大切にしているという点 です。P138を見てください。このシーンで弓を命がけで 拾っています。仲間のプライドを守るみたいなシーンな ので,仲間を大切にしていることが分かります。さらに, この義経さんは自分の長所と短所を理解しているんです。 もし皆さんが大将だったら,自分の短所とか考えますか? 考えませんよね?自分はすごいと思い込んでしまうかも しれません。でも,この義経さんは自分の長所と短所を 理解していて,自分にできることをしているんです。ささらに,討論の中では教師と次のようなやり取りもあった。( S:生徒 T:教師 ) S「敦盛は,なんかしっくりきませんでした。」 T「それだけ?具体的にどの辺が?」 S「えっと…きれいな心になんで笛に…ちゃう…笛を持 〈各時間の中で〉 授業の中において,生徒の「問い」をどのように生かしたかということについて述べる。自己評価シートは,毎時間回収するのではなく,指導者が必要だと感じたときに回収すると記したが(p7),今回は第2時終了後と最後に回収している。 表3-4は,第2時終了後に回収した段階で生徒が記述していた「問い」と,そこから考えられる教師の助言になり得る発問をまとめたものである。 表3-4 生徒の「問い」と今後想定される「問い」 学級ごとに自己評価シートを見て,教師の「発 問」を考えるために要した時間は十分程度であり, 手間はそれほどかからなかった。また,ここに記した全てを教師が発問するわけではない。学級によって多少違いもあり,教師の発問として分類している疑問が,すでに生徒の中から生まれている学級もある。第3時以降の学習活動の中で,生徒たちから生まれてほしい「問い」でもある。教師が助言として発問する場合であっても,全体で共有Seito 生徒の「問い」 ・なぜ敦盛は引きかえしたのか。 ・なぜ義経は男を射殺すよう命じたのか。 ・義経はなぜ平然と人を殺せるのか。 ・自分の手を汚さなくてもいいのか。 ・なぜ武士はこれほどプライドが高いのか。 ・それほどプライドとは守るべきものなのか。 ・なぜ武士という理由で死を選ぶのか。 ・なぜ死を恐れずに戦えるのか。 ・直実の優しさは敦盛に届いていたのか。 ・直実はなぜ情けをかけたのか。 ・戦いの中でなぜ相手のことを考えられるのか。 ・直実は敦盛が美しくなかったらどうしていたか。 ・人として,リーダーとして,どちらが大切なのか。 中学校 国語科教育 12 ・引きかえさなければど・なぜ平家の男は躍り出・勝てないとどうなるの・大将であるために必要・武士の誇りとは。 ・武士としての生き方,・武士が死よりも恐れて・武士としての接し方,・本当の情けとは。 ・必要なことなのか。 ・引きかえすように行っ・助けようと思った理由・人=武士=大将・家来想定される「問い」 うなっていたか。 たのか。 か。「平然と」なのか。 なことは何か。 人としての生き方とは。 いるものは何か。 在り方とは。 たのは直実だが。 は何だろう。 となることもあれば,人≠武士≠大将・家来となることもあるのではないか。
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