Y「鍵がないと分からないことの理由?」 J「うーん,分からん。(自分でも分からなくなってきた)」 K「鍵があるから開けたときに全てが分かる。でも鍵が 生徒Jは,自分の疑問を上手く伝えられず,もどかしい思いをしていたが,生徒Kの言葉によって 整理され,生徒Jの疑問は「鍵がないと分からない こととは何だろう。」という「問い」となった。 各学習班において,ある程度「問い」が整理されてきたところで,全体で共有し,教師が一時間目に確認した「問い」の種類を再び提示し,教師の助言を基に,学習班で自分たちの「問い」を解決する順番を決め,話し合いを進めていく。例示した学習班の生徒たちは,生徒Jの「問い」は大きな問いと判断し,最後に考えることとした。 この班は,最初に最も意味が分からなかった第4連の意味について考えた後(p5~6参照),「なぜ黄金の鍵なのか」という「問い」について考えている。生徒Xは,鍵が「高級なもの」「大切なもの」と発言をしているにも関わらず,黄金という表現とどうつながるのか理解できずにいたが,生徒Jが「黄金=大切」と結び付けて説明している。第4連の表現については5~6頁で示した「自己主張している」という結論の他に,「様々なところある」という結論を導き出した班もあり,「なぜ黄金の鍵なのか」という「問い」に対する結論とつなぐと,「いたるところに当たり前のようにあって,とても大切なもの」という,この詩の中における鍵の存在が見えてくる。これらの生徒の結論を踏まえ,教師は次のような発問をしている。 T「なるほど。いろいろな場所にあって,しかも鍵は見 ないと分からへんことって何なん?ってこと?」 J「そう!そう!そういうこと!そういうこと!」 (「問い」に対する答えを導き出す様子) K「黄金の鍵は?」 X「高級感。でも,なんで黄金なん?」 Y「鍵はただの鍵だけど,それがないと開かないから…」 K「どういうこと?意味分からん。」 Y「これが必要ってこと?」 X「大切なもの。」 Y「ああ。」 K「鍵だけど,これ以上ない大切なもの。」 X「じゃ,なんで黄金なん?」 J「大切やからやろ。黄金って大切やん。」 (下線・括弧内は筆者による) つけやすいようにアピールしているんだね。だとし たら,ほとんどの人は見つけられそうだね。例えば, 作者の茨木さんは見つけられたの?」 中学校 国語科教育 9 この教師の発問に対して,生徒は「見つけられていない」と返す。すると,「いろいろな場所にあって,見つけられそうなところにあるのに,どうして見つけられないのか」という,さらに読みを深めていくような「問い」が生み出されることとなる。このように,生徒たちが考えてきた「問い」と「答え」を生かしながら,より深い「問い」を生み出すことができ,「どうしたら見つけられるのか」「自分にとっての鍵とは」など,考えの形成につながるような「問い」を教師が課題として提示することができる。また,左に例として挙げた学習班の「鍵がないと分からないこととは何だろう」という「問い」は,教師の提示したい課題につながるものであり,その「問い」を全体で共有することができれば,自然と考えの形成に関わる「問い」というものも生み出されるだろう。生徒が「問い」を意識することができれば,教師の一方的な課題の提示ではなく,生徒と教師の協働といった形で,課題を設定していくが可能になるのではないかと考える。 〈B校 生徒の発言を受けた教師の働き〉 A校は生徒がある程度,「問い」を整理し,その答えを導き出してから教師が調整したり,発問したりしていく形であったが,B校では,「問い」の整理や精選の段階で教師が直接的に舵取りをしている。B校でもA校と同じような形で授業を展開することも可能であると感じていたが,全ての学校,教師が,最初から生徒が立てた「問い」を基に授業を容易に進めていけるとは限らない。そこで,最初は教師が生徒の問いを調整し,課題として提示する形も提案したいと考え実践した。生徒の「問い」を基に授業を組み立てることに不安を覚える指導者も,最初に教師が舵取りをすることで,イメージをつかみやすいのではないかと考える。また,教師が提示するといっても,生徒の問いが基になっていることに変わりはない。一方的に考えさせられる課題ではなく,目標を達成するために自分たちに必要な課題であることで,生徒自ら考えることにも十分つなげていけるのではないかと考えている。そのような活動を繰り返していく中で,最初のうちは教師から調整されたり,誘導されたりしていたものから,自分に必要な問いを見い出しながら読むというものへと変化していき,自分で読む力も少しずつ養われていくのではないかと考えている。次に示したものは,学習班で共有した「問い」の中で生徒が最も大きな「問い」133
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