001総教C030705H30加藤最終稿
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10 まず①についてである。公民としての資質・能力の基礎を育成することが社会科の教科目標として示されている。その目標に向け,社会科の授業では社会に見られる様々な課題や問題から学習問題を設定し,その問題解決に向けて調べたり調査を行ったりする。そしてその過程で様々な具体的な知識を獲得し, その知識を基に概念の獲得を目指す学習が広く行われてきた。さらに,そのような知識を基にしながら価値判断や問題に対して意志決定するという学習も行われてきた。 加藤はこれまでに社会科で論じられてきた「社会的な見方や考え方」の育成の観点から多様な授業論を整理している(18)。そこからは,これまで提唱されてきた多様な社会科の授業が,「社会的な見方や考え方」の育成を目指していることがわかる。そこに共通するのは,公民的な資質・能力の育成をどのように実現するか,というものである。新学習指導要領でも目指す理念は同じである。社会科の目標の達成に向け,新学習指導要領では概念の習得を目指すとともに,その概念を用いて考えたり,選択・判断したりするなどして生きて働く知識にすることを求めている。 しかし,これまでの社会科の実践では,実際に子どもたちが獲得した概念を用いて価値判断したり,選択するなどの意志決定をしたり,社会参画に対して主体的に考えたりする学習が一般的に広く行われてこなかったと筆者は感じている。それは問題解決的な学習である社会科では,子どもたちが獲得した様々な事実的な知識をまとめ,概念的な知識を獲得することを目指す概念探究型の社会科学習が広く実践されてきており,この概念の獲得を最終目標として単元が構成され,その概念を活用する学習場面が十分位置付けられてこなかったためだと考えることができる。概念を獲得した後,社会参画までを考えるのが小学校の社会科において適切かどうかを疑問視する声があったことも,概念を活用する学習場面の設定が十分広まらなかった要因と考えられる。また,指導する単元のすべてが社会の形成に参画しようとする態度を養うことに適したものではないこともその一因であろう。 以上のことから,社会の形成に参画しようとする態度を養うためには,単元を通じどのような概念を習得させるのか,さらに習得した概念をどのように活用するのかを適切に考える必要がある。 次に②についてである。社会科における学習では資料等から情報を抽出し,その意味や価値を考小学校 学習指導法 6 えることで社会的事象についての理解を深めていく。資料等から事実を得て終わるのではなく,その事実を基に社会的事象にどのような意味があるのか,どのような特色があるといえるのかを考えることができるようにすることが大切である。 しかし,平成24年度学習指導要領実施状況調査の結果からは,資料から読み取った情報を比較して相違点や共通点を見いだし,社会的事象の特徴や働きなどを考え表現することや,情報を相互に関連付け,社会的事象が成立する条件などを考え表現すること,様々な情報を総合して,社会的事象の働きなどを考え表現することに課題があると示された(19)。さらに,同調査において行われた児童質問紙調査では,『社会科の授業で,自分の考えを資料などを使って説明することができますか。』という質問に対して,表1-1のような結果が見られた(20)。 表1-1 H24学習指導要領実施状況調査 児童質問紙調査① また,そのうち「できない」,「どちらかといえばできない」を回答した子どもは表1-2のような理由を挙げていた(21)。 表1-2 H24学習指導要領実施状況調査 児童質問紙調査② 話すのが苦手,はずかしい,時間がたりないなど,資料の見方・考え方に直接結びつかない項目もある。しかし,資料からとらえた情報をどのように用いて考えたらいいのか,という点に対して苦手意識をもっている子どもの割合が高いことから,資料を適切に用いて考える力が十分ではない,という課題があることが明らかとなった。 新学習指導要領では社会的事象の見方・考え方を適切に働かせ,社会科で求める資質・能力の育成を目指している。教材を吟味し,単元構想や1単位時間を見通し,どのように見方・考え方を働

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