第1節 探究的な学習が目指す子どもの姿 (1)生きる力の育成に向けて 私たちの住む世界は今後どのように変化するのだろうか。変化の激しい昨今,これまで当たり前でなかったことが当たり前になったり,一方で当たり前であったものがそうでなくなったりすることが珍しくなくなっている。多様に変化する社会は,今後急速に拡大していくといわれている。現在進行中の第四次産業革命はIoT(Internet of Things)やビッグデータの利活用と,AIやロボット等の技術革新により,個々に応じた生産・サービスの提供や,資源資産の効率的な活用,労働の補助・代替などが可能となる大きな社会変革であり,新たな経済発展や社会構造の変革が生じると議論されている。 その変革の中心の一つであるAIの目覚ましい進化に目を向けてみる。AIは加速度的に進化を遂げ,スマートフォンの音声検索システムなどのAIアシスタントに代表されるように,私たちの生活にも様々な形で普及してきている。進化の著しいAIは,今後ビッグデータの処理・分析における活用等を通じ,現在課題とされている諸問題に対する解決をも導くことができると期待されている。 また,平成29年版情報通信白書では,少子高齢化とそれに伴う生産年齢人口の減少による生産性・生産力の低下を起因とした中長期的な経済成長における課題解決の実現に向け,働き方改革に関わる観点から,ICTやAIの活用による労働参加率向上,労働生産性向上等が期待されている(1)。 このように,普段の生活や社会システムの中にこれまで以上にAIやICTが組み込まれることで,生活の様子が大きく変わっていくことが予想され,その変化のスピードもこれまでになく急激なものになるといわれている。急速に変化し,その変化の予測が困難な社会において,子どもたちに求められる力は,「何を知っているか」という様々な領域固有の知識の体系だけではなく,習得した知識・技能を活用し,多様な問題に対処したり解決したりすることができるような汎用的な力である。 このような力の必要性は今新たにいわれ始めたことではない。平成8年の中央教育審議会答申(2)(以下:答申)では,子どもたちに育むべき「生きる力」としてその目標に示された。未来を担う子どもたちが変化の激しい社会の中で自ら問題を発見し,他者と協働しながら主体的に問題解決をしていくために必要な力を育む探究的な学習は,生きる力の育成に大きく関わり,その充実が求め小学校 学習指導法 1 (1)総務省「平成29年版 情報通信白書」 2017.7 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/pdf/29honpen.pdf pp..170~207 2019.3.1 (2)文部省「中央教育審議会『21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)』」 1996.7 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/toushin/attach/1309590.htm 2019.3.25 (3)拙稿 「No.586 各教科等における探究的な学習の展開(1年次)-主体的に問題と向き合い,学びを深める学習-」『平成29年度研究紀要』 京都市総合教育センター 2018.3 我々はこれからの子どもたちに必要となるのは,いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力であり,また,自らを律しつつ,他人とともに協調し,他 人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は,こうした資質や能力を,変化の激しいこれからの社会を「生きる力」と称する (7) られている。筆者(3)は子どもたちが主体的に課題に取り組むこと,習得した概念や一般的な法則等を活用する場面を単元の後段に意図的に設定することで,探究的な学習の充実を図ってきた。 本研究ではこの研究に立脚し,子どもたちに身に付けることが求められている力はどのようなものであるかをさらに明確にするとともに,探究的な学習のさらなる充実を図り,未来を担う子どもたちの力の伸長を志向していきたい。 生きる力の育成を目指した探究的な学習の充実に向け,習得・活用・探究の学習プロセスが求められるようになった。平成20年の答申では,習得・活用を各教科等において,探究を生きる力の育成に向けて創設された総合的な学習の時間を中心として行うことが示された(4)。さらに,平成28年の答申では,総合的な学習の時間のみならず,各教科等において習得・活用・探究の学習の過程を充実させることが示された(5)。ここで示されている習得とは,知識・技能を身に付けること,活用とは習得した知識・技能を用いて思考・判断・表現することである。このように,習得と活用を繰り返すことを通じ,物事の本質等を探って見極めようとする一連の営みが探究である。 探究的な学習を通じて育成が求められる生きる力は,平成8年の答申で次のように示された。 5 はじめに 第1章 求められる探究的な学習
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