ぞれで3回の活用場面を設定したことで,子どもたちは習得した知識や概念等を活用することにも慣れていったことも一要因であると考えられる。無論ただ慣れただけでは十分活用することはできない。活用場面を継続して設定することはもちろん,活用するために子どもたちが見方・考え方を適切に働かせたり,自分たちで対話を通じて考えを深めたりする学習を継続して行ってきたことが,発展的な探究における活用の充実につながった最大の要因であると考える。日々の学習で見方・考え方を働かせるための手立てをとり,その見方・考え方を働かせた結果習得した知識を対話を通じて活用し,考えを深め,新たな知識や深まった考えを習得していく,この基礎的な探究のサイクルの充実があったからこその習得Aにおける概念の獲得につながったのである。 さらに,日々のこのような学習を通じ,子どもたちの対話する力が育まれていったことで,活用場面の議論がより充実し,習得した知識や概念等が活用され,思考を深めるに至ったことにもつながってくる。発展的な探究における活用というゴールを目指し,基礎的な探究における習得Aに向けた充実を図ることの重要性が改めて示されるとともに,その充実を図るために見方・考え方を働かせることや対話的な学びを適切に取り入れる必要性が示されたといえよう。 第2節 活用場面の設定に向けて 発展的な探究における活用場面を設定することで,子どもたちは習得した知識や概念等を活用し,考えを深めることができるようになる。しかし,毎単元活用場面として時間を設定することは,社会科の時数の関係上難しい。そこで, ①年間の指導計画の中で活用場面を設定する単元を計画する。 ②習得Aと活用Aを同一時間に設定する。 という2つの改善策を考えることができる。 まず,①に関してである。年度当初に次の図4-10ように社会科の年間計画を立てる。 小学校 学習指導法 27 これは第3学年・第4学年の年間計画の例である。それぞれの単元においてどのような資質・能力の育成に力点を置いて指導をするのかを考える。図に示すように活用する力の育成だけでなく,対話する力や問題発見力等,どのような資質・能力の育成を図るか,年間の学習を見据えて設定する。 例えば,まず活用する場面の設定から考える。社会科の内容は地理的環境と人々の生活,歴史と人々の生活,現代社会のしくみや働きと人々の生活という3つの内容で構成されている。それぞれの内容で活用する場面を設定することで,多様に活用する力の育成を図る。この活用場面の設定に併せ,問題発見力や対話する力など様々な資質・能力の育成も計画する。社会科の学習を初めて行う第3学年では,年度当初に問題解決的な学習の基盤となる問題発見力の育成を目指し,社会的事象の見方・考え方を育む手立てとして見方・考え方シートを単元を通じて活用したり,対話する力を高めるために,本実践でも行ってきた対話の可視化をする場面を各学期に取り入れ,年間を通じて子どもたちが自分たちの伸びや変容を実感できるようにしたりすることも考えられる。単元や子どもの実態に応じながら年間の学習を計画することで,必要な時数を適切に配分することが可能となり,子どもたちに身に付けさせたい力の育成を計画的に図ることが可能になるだろう。 また,②に示したように習得Aと活用Aの場面を同一時間に設定することも考えられる。本実践で行った第6学年「世界に歩み出した日本」の7/8Hの習得Aの場面では,日本が近代国家として世界に認められるための政策について文章でまとめた。すべての政策が日本の近代国家としての国際的な評価を高めることに寄与していたことを子どもたちはとらえ,概念化していった。これまでの学習を通じ,子どもたちは習得した知識をまとめて概念化することに少しずつ慣れてきている様子もうかがえた。そこで図4-11に示すように,習得してきた知識の概 念化を1単位 時間の学習の 前段で,さら にそこで概念 化した内容を 図4-11 習得Aと活用Aの時間の設定 用いて考えを深める活用場面を同一時間の後段に設定し,学習を行った。後段の学習では,日清・日露戦争,条約改正,国内産業の充実,民主主義運動,科学の発展の5つの視点についてどの政策31 図4-10 社会科の教育内容と重点項目の年間計画図
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