このやり取りからわかるように,子どもたちは討論の形式で話合いを行ってはいるものの,これまでの学習で習得した知識や概念等が十分活用できていない発言が多くみられる。また,主張の根拠や論点が曖昧で議論が深まっていない様子も見られる。教師が適宜学習してきたことを根拠として示す旨を伝えたり,気持ちではなく事実を基に話すことを示したりしているが,それでも適切に根拠を示すことができていない様子もうかがえる。 図3-9 第6学年「明治の国づくりを進めた人々」 この単元では明治政府が近代国家を目指して行24 C3 織田は明智光秀に本能寺の変で殺されて,そのあと豊臣が明智光秀を倒してうらみを晴らす。豊臣は検地をして百姓をどん底に落とすけど,伏見城をつくった。京都はまっすぐな道があるけれど,豊臣秀吉がつくった。豊臣がしなければ今の京都はないから。 C4 身分をつくったことによって,身分が低い人は豊かなくらしを目指して身分を上げようとする。そのために武芸に励んだりして頑張るから,どんどん強くなっていって,豊臣秀吉が何もしなくても身分を考えるだけで下の身分の人が強くなるから。 T 最後に徳川家康を選んだ人どうぞ。 C5 織田が土台をつくったのもあるけれど,最終的に勢力を伸ばしたり戦いの仕組みを考えたりしたと思うから。江戸幕府の仕組みを整えて自分の国づくりにしていくから。 C6 織田信長と豊臣秀吉がキリスト教を許したり,楽市楽座をしたり刀狩をしたのは民衆が反抗できないようにしたからで,徳川家康は一国一城令を出したり仕組みを整え たり一番平和に仕組みを整えたから。 T それぞれの意見に対して反対意見を言ってもらいます。誰に対しての意見なのかも言ってください。 C7 豊臣に対して反対で,明智光秀を倒したというけど,自分とあんまり仲がよくない人に殺された織田信長が,明智を倒してうらみを晴らしたといっても,別にあまり何もうれしいとは思わない。 C3 豊臣秀吉が天下統一できたのは織田信長の勢力によって。もし織田信長の家臣になっていなかったら敵に回していた。楽市楽座やキリスト教を許したりたくさん新しいことをしたから。このまま豊臣秀吉が身分を決めたりしたら反発したりして,従うのはいやかな,と思って,勢力が弱くなっていくと思う。 T 根拠とか話す理由とかをしっかり言ってください。 C4 豊臣秀吉は実際に京都にまっすぐな道をつくった。僕が調べたことだけど,豊臣秀吉は扇風機をつくった。僕たちの生活に欠かせないものをつくったから。 C5 他の意見の人は秀吉がすごい民衆たちに不快な感じやったけど,自分たちが豊かに暮らせるために,扇風機とかつくったから,嫌われているのは違う。 C3 検地とかで身分とかを決めて嫌われていたというけど,反発もあるけど,扇風機とか今の生活に欠かせないものをつくってくれたからうらめない。 T 徳川家康側の人は?自分の気持ちじゃなくて,学習したことを踏まえて話してください。 C8 扇風機って言ったけれど,本当に身近なんですか?今の扇風機と同じ? C9 豊臣秀吉の人に質問で,今の暮らしを豊かにするためっていうのはわからなくもないけど,京都の街とかは全国統一に関係ないんじゃないかな。もっと全国統一に関係したことはないのですか。 C10 織田信長は明智光秀に殺されたのは最終的に自分が悪かったからで,豊臣秀吉は検地をして豊かにするっていってたけど,最終的に豊かになっていない。 小学校 学習指導法 20 討論を通じ,深まった考えを見出す子どもも見られたが,全体の中ではまだ少数にとどまっていた。 実践では,この後,江戸時代に謳われた「織田がつき 羽柴がこねし天下餅 座りしままに食うは徳川」という狂歌について,討論を通じて深まった考えをもとに,その歌が適当といえるか否か,自分の考えをまとめた。そのまとめには次のようなものが見られた。 異なる立場との討論を通じ,新たに獲得できた視点を踏まえて考えをまとめた内容の記述も一部見られるが,まだ十分な活用ができていない子どもの記述も多く見られる。 習得した概念を用いて考えを深めることができるようにするため,「明治の国づくりを進めた人々」の単元でも歴史的事象を客観的にとらえたうえで,立場を明らかにしながら討論する場面を,図3-9のように設定した。 った様々な政策やその意義について理解を深める。様々な政策が行われる一方,民衆は新政府の諸政策に対して不満をもち,反乱や一揆等も起こした。このように,新しい国づくりを目指して行った明治新政府の諸政策は評価できるか否か,習得した概念等を用いて判断し,討論を通じて考えを深め(織田信長派) ・歌に納得しました。理由は,「織田がつき 羽柴がこねし」で,織田と豊臣で天下を統一していったという,最後の徳川は,横取りしたという感じで,成り立っていると感じる。 (織田信長派) ・歌に納得で,織田がまず作って,豊臣がこねる,つまりまとめて天下統一して,座りしままには何もしていないけれど,横取りみたいで,織田がつかないと羽柴はこねられないし,羽柴がこねないと徳川は食べられないから,最初の土台となったのが信長だから納得する。 (徳川家康派) ・歌に納得しない。最後の「座りしままに 食うは徳川」だと徳川は何もしないで織田とか豊臣が発展させた世を受け継いだだけみたいに聞こえてしまう。織田や豊臣が発展させたのは確かにあるけれど,徳川は何もしていないわけではなく,幕府を開いてやっぱり貢献しているから。 活用設定場面
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