図3-5 第4学年「火事をふせぐ」活用設定場面 22 T 火災を減らすために自分たちにできることがいろいろある,ということでしたが,1年後の5年生にアンケートをとった様子です。意識することが必要だと言っているけれど,実際に意識している人はほとんどいないようです。実際に一年後意識してないよ。本当に意味あるの? C1 自信なくなる。 T 意識することが本当に必要なのですか? C2 火事は家族の人などが気付かないときに起きるかもしれないから必要です。 C3 火災の件数がちょっと減っただけでも,消防署の人たちの負担が減らせるから,意識だけでも大切だと思います。 C4 ポスターみたいなのを貼ったら減ると思います。 C5 日曜日は防災の日,とかを作ったら意識して過ごせます。 T 意識したら何がいいの? C5 火災が一件でも減ると思うので,いいと思う。 C6 意識するのは大切だと思います。暖房のスイッチを消したりする意識をもたないと,消防団の人数も少ないから,自分でできることは意識してやらないとダメ。 T なんで意識しないとだめなの? C6 消防団の人数が減っているから。 C7 気づかないときに火事が起きてしまったら大変だし,消防署の人たちも大変だから意識するといい。 習得Aの段階で,関係諸機関の努力・協力により火事からくらしが守られているという社会的認識を子どもたちは獲得している。この認識を基に活用場面では現実化を目指した。消防署や消防団の取組は身近な生活の中で実際に行われていることであるが,火事を防ぐという視点から考えた時,自分にはどのようなことができるのかを考えることで,学んだことを踏まえ,なかなか減らない火災件数を減らす,という問題の解決に社会の一員として向き合い,社会参画の意識を育めると考えた。しかし,ただ自分たちにできることを考えるだけでは,単元のはじめにこの問いを子どもたちに投げかけて返ってくる答えと同じになるだろう。そこで,同校の第5学年にアンケートを取り,同じ学習をしてから1年後に火災を防ぐ取組が意識できているかどうかを数値化して子どもたちに提示した。すると,考えることはできても実際にはできていない実態が浮かび上がったことを受け,なぜできないのか,本当にできることはどういうことなのかを考えることを通じ,現実化した問題解決を目指す姿が次のように見られた。 小学校 学習指導法 18 火事を防ぐために本当にできることは何か,なぜそれをすることが必要なのか,火災の減少という現実問題を自分事としてとらえ,実現可能なレベルでの取組の必要性について考えているのがわかる。一方で,これまでに習得した概念や知識を十分活用して思考を深めることができなかった子どもも多く見られた。 そこで,単元構成に類似している点が多い次の「事故や事件をふせぐ」の単元でも,同じように現実化を図る活用場面を設定することで,子どもが自分事として問題をとらえ,習得した概念を用いて主体的にその活用が図れるようにした。その上で自分の考え・立場を選択・判断する意思決定の場面として図3-6のような活用場面を設定した。 図3-6 第4学年「事故や事件をふせぐ」活用設定場面 習得Aの段階では,自分たちのくらしの安全が法・きまり,警察,地域の人,自分の四者によって守られていることをまとめた。この習得した概念を用い,活用場面では法による規制の幅を広げることで,増加する自転車事故を防ぐという考えに賛成できるか,という視点で議論を行った。増加する自転車事故の現状を知ることで,その対策の必要性に気付く一方,自転車免許制の実施による自分たちの日常生活への影響を考えると,簡単に法で規制することができないジレンマと対峙することとなった。その上で習得した概念等を活用し,子どもたちは賛成・反対の立場から議論し合うことを通じて考えを深めていった。学習を通じて考えを深めた子どもの記述の一部を次に示す。 ・自分がしっかり気を付けていれば免許はあまり必要ないけれど,免許をとれば自分が安心してくらせるのでよりよい。安心・安全なくらしをするためには自分がすごい大事だ。 ・自分がきまりを守ることが大切だから免許制は必要ないと思う。法・きまり,警察,地域の人がそろっても自分が守らなければ何の意味もない。 ・事故を減らすためには自分が何かをすることが大切。でも自転車免許制をすることで事故が減るのであればそれも一つの案だと思う。 ・法やきまり,警察,地域の人,自分の四つの視点があることで安心・安全なくらしが守られている。だから免許制にすることで人の命とかがより守れるので賛成。 ・自転車を免許制にしてもしなくてもいい。それよりも自分の意思で気を付けることがもっと大切。
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