14 では,社会科における活用Aとはどのようなものが望ましいのだろう。新学習指導要領の思考力・判断力・表現力等の資質・能力に関わる目標から,社会科で育成を目指す思考力・判断力は次のように整理することができる。 ①社会的事象等の意味や意義,特色や相互の関連を考察する力 ②社会に見られる課題を把握して解決に向けて選択・判断する力 この二つは,社会科における問題解決の過程において,深い学びの成立に強く関連付けられるものでもある。①についてはこれまでの社会科でも繰り返し述べられてきた内容である。社会科では社会的事象のしくみや働きについて学んでいく。例えば,第5学年の食料生産の単元であれば,学習問題を設定し,情報収集する中でその情報を分析することなどを通し,自然条件を生かして食料生産が行われ,人々は生産性や品質等を高めるための工夫や努力を重ねていることなどを理解する,ということである。社会的事象のしくみや働きを学び,「社会がわかる」ようにするのを社会科の授業の目的とするのであれば,社会的事象の意味を理解するというここまでの授業でも十分である。 しかし,社会科教育における目標は公民としての資質・能力の育成である。公民としての資質・能力の育成を図るためには社会的事象等の意味や意義を適切に理解しておくとともに,その社会的事象の課題や問題を把握し,その解決に向けてどのように関わったらいいのかを考えることができるようにしなければならない。社会には様々な問題が山積しており,同時に多様な価値観が存在している。そのような中でよりよい社会を形成していくためには,社会に見られる課題や問題に対して自分がどのように関わっていけばいいのかを考えたり,よりよいと考えられる立場を選択したりする力を育成することが求められる。そのためには授業の中で社会的事象と自分の関わり方を考えたり,社会に見られる様々な問題について解決策を考え,よりよい在り方を判断したりする場面を設定することで,②に示されている力を育成していくことが必要となる。第5学年の食料生産の単元であれば,高齢化が進むなど様々な課題が見られる中で,これからの食料生産はどのようにしたらいいのか,これまで学習して習得した知識や理解を基にし,これからの在り方について優先すべき取組を考えたり,なぜそれを大切にすべきなのかなどを考えたりすることである。このような場小学校 学習指導法 10 面を設定することで,習得してきた概念を活用することができ,生きて働く知識へと昇華することができると考える。 以上のことを踏まえ,探究的な学習を展開する中で,子どもたちが基礎的な探究を通じて社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連等について理解し,社会がわかることを目指す。これが社会科における概念的な知識,習得Aとなる。その上で活用Aの場面として,現在の社会に存在する問題について獲得した概念的な知識を活用し,その解決策を考えたり,よりよい在り方は何かを判断したりすることができるような場面を設定する。この場面では,これまでの学習で学んだことを生かした新たな視点を提示したり,これまでの学習で用いた資料等にさらに多角的な視点を与えて事実を示したりすることにより,子どもたちの思考が連続するように留意し,習得した事実や考え,人々の取組などの意義などを根拠とし,適切に理由付けをしながら判断できるようにする。このように立場を選択したり,よりよい在り方を自分なりに判断したりすることで考えを深め,望ましい公民としての資質・能力を育めるようにしていく。 このような活用場面で子どもたちが自分の考えを深めていくためには,その考えを適切に表現する場を設定することも大切になる。与えられた視点から,自分なりに深めた考えをもつだけで学習を終えることのないように留意したい。問題に対する人々の考え方や価値観は多様であるため,子どもたちが個々の考えをもつだけではよりよい社会の在り方について考えを深めることが十分できたとはいえないからである。他者とその考えを交流する中で多様な考え,価値観に触れ,その思いを交流していくことで初めて現実の社会の問題解決を図る公民的な資質・能力を育むことができるようになると考える。活用場面では自分の考えをつくることを大切にするとともに,その考えを交流し合うことを通じ,さらに深めることができるよう,適切に表現する場面も設定していく。このような手立てを通じ,発展的な探究における活用場面の充実を目指す。 第2節 社会科で育む資質・能力の育成を目指して (1)社会的な見方・考え方を働かせる 新学習指導要領では各教科等で見方・考え方を働かせることが示されている。社会科では,社会的事象の見方・考え方を働かせ,課題を追究した
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