図2-1 考えを深める対話シート 対話的な学びの充実を図る必要性が増す中,どのようにその充実を図ったらいいのだろうか。本研究では,対話的な学びの充実に向け,次の2つの視点から取り組む。 まず,子どもたちが自分たちの対話的な学びがどのようなものであるかを認識することである。子どもたちは様々な場面で対話の経験はあるものの,自分たちが行っている対話がどのようなものか,客観的にとらえてはいない。そこで子どもたちの対話の場面を撮影し,その対話の内容を文字に起こし,その対話の記録をまとめた資料を作成する。後日,子どもたちに撮影した対話の場面の様子を見せるとともに,自分たちの対話の流れを記録した資料を配布することで,対話がどのようなものであったかを客観的にとらえることができるようにする。何のための対話であったのか,どのようなゴールを目指したものであったのかを確認することで,自分たちの対話にとって,考えを深めるために必要な要素は何かを考えることができるようにしていく。 次に,子どもたちに対話のモデルを示すことである。自分たちの対話の様子が客観的にわかっても,それを改善するための具体的な方法がわからなければ,充実した対話を展開していくことはできない。そこで自分たちの対話の場面を振り返ったうえで図2-1のような対話モデルのシートを子どもたちに配布し,常に携帯できるようにする。 話合いでは司会と話し手という異なる立場が存在する。司会,話し手のそれぞれがどのように問いかけたり答えたりすれば,より話合いが深まるのかということを理解したうえで対話を行うことで,学習に深まりが生まれる。モデルを提示することで,具体的にどのような場面で,どのような問い方・答え方をすれば考えが深まるのかを子どもたちが理解し,実際に対話シートのモデルに合小学校 学習指導法 9 わせて話し合うことが可能となろう。 また,対話をする場面では,自分の考えをしっかりもてている子どももいれば途中までしか考えられていない子どももいるだろう。一つの資料に目を向けた子どももいれば,複数の資料に目を向けた子どももいるだろう。同じ資料でも視点が異なれば多様な考えが生まれてくる。多様な考えをもっている子どもたちそれぞれの立場でどのように話合いを進めたらいいか,どのような視点をもって話合いを行っていけばいいのかが見えることで,その対話を通じて考えを広げたり深めたりすることが可能となる。 このようなモデルをただ子どもたちに提示しても,子どもたち自身が十分その意味を理解して活用することは難しい。しかし,子どもたちの普段の対話の場面の記録を取り,その記録を基に自分たちの今の対話の状況を認識できるようにすることで,自分たちの対話に足りない,十分とは言い切れないのはどのような視点なのかを認識することできるようになり,子どもたちが主体的にこの対話シートを利用し,考えを深めるための対話を実践することができると考える。 また,この対話シートを活用しながら考えを深めることを目指すが,この対話シートのモデル以上の対話を自分たちで構築できるようにすることが最終目標である。モデルに縛られるのではなく,そのモデルを生かし,自分たちが考えを深めるためのよりよい対話の在り方を構築していくことができればと考える。 このように対話的な学びの実現を図ることで子どもたち相互の知識・技能の習得の充実が期待できる。探究的な学習における基礎的な探究のプロセスを充実させることができよう。 (2)学びを生かす活用場面の設定 昨年度の算数科の実践では,基礎的な探究を通じて習得した法則を,日常生活にみられる問題場面に適応させる課題を活用場面として設定し,活用Aの充実を図った。子どもたちは実際に自分たちが生活している中で学習した知識・技能が活用できることを実感するとともに,習得した知識・技能を適切に活用して深く思考する姿が見られた。 このように探究的な学習において,習得した概念等の知識である習得Aを生かし思考する場面として,活用Aの場面を設定することは,子どもたちの思考を深める上でも,生きて働く力として昇華していく上でも非常に重要である。 13
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