第1章において,困りを抱える児童生徒とその他の児童生徒のソーシャルスキルを育成することの必要とそれを実現するための方法として学級SSTの特徴について述べた。ここでは,実践の中で行う学級SSTについて概括したうえで,実践の中に取り込む指導要素の詳細を示す。 第1節 学級SSTの設計 (1)スモールステップによる指導 SSTを進めると,当初設定したターゲットスキルを児童生徒が習得するのと同時に,新たなソーシャルスキルの不足が明らかとなり,指導の最終到達点が断定できなくなることが多い。例えば,「あいさつをされたら返事をする」というスキルを指導し,児童がこれを習得した際,指導者は「相手の目を見てあいさつした方がよい」「相手の呼びかけに反応するだけではなく,自分からあいさつできないといけない」といった,より高次なスキルの必要を感じる。結果として「あいさつ」に関わる指導が継続されるのである。 また,実際の指導を行う段階で児童生徒のスキルの獲得がままならず,その原因を明らかにするために時間が割かれることも多い。これは教科の学習と似た部分が多い。例えば算数科で「長方形の面積」を求める際に児童が正答にたどり着かない。その原因は「立式できない」「掛け算ができない」「繰上がりの足し算ができない」「位取りができない」「問題の意味が理解できない」など実に多様である。そのため,指導者が一人一人の実態の把握に時間を割き,不足分を補いながら指導を進めるのである。これは,正答にたどり着くまでに多くの段階が存在していることを示しており,難易度が高いものほど,段階も多くなる。ソーシャルスキルにおいても同じことがいえる。 1年次の研究ではこのような点に着目し,事前果」2017.5.1 (4)文部科学省「文部科学統計要覧」2017.4 (5)Neefら Assessment of impulsivity and the development of selfcontrol with students with attention deficit hyperactivity disorder. Journal of Applied Behavior Analysis,34 pp.397~408 2001 (6)文部科学省「教育支援資料」2013.10 (7)河村茂雄ら「いま子どもたちに育てたい学級ソーシャルスキル CSS」 p.21 図書文化社 2007.6 (8)相川充「人づきあいの技術―社会的スキルの心理学―」サイエンス社 2000 (9)Michelsonら Social skills assessment and training with children. Plenum Press, New York,1983 小学校 総合育成支援教育 7 にターゲットスキルに含まれる要素(「あいさつする」であれば,手を止めて,相手の方を向いて,聞こえる声で 等)をスモールステップとして抽出し,それを児童に合わせて順番に指導していく形をとった。その結果,対象児童だけでなく指導者もターゲットスキルに含まれる技能的な要素を俯瞰することができ,計画的な指導や指導後のスキル般化場面での効果的なフィードバックが可能となった。 これを踏まえ本研究では,学級SSTの計画時にターゲットスキルからスモールステップを抽出し,それを組み合わせて指導することとした。多様に存在しているスモールステップを指導することで,スキルを獲得していない児童のスキル獲得につながり,既にスモールステップのいくつかを身に付けている児童もターゲットスキルの質を向上させることができると考えた。また学級での指導とSSTの親和性は高く,教師のもつ指導の専門性と組み合わせることで,高い効果が期待できると考える。 (2)学級SSTの技法 SSTの指導技法に関してはこれまでにも多くの研究が行われてきており,大別するとそこで用いられる技法はモデリング,教示,リハーサル,フィードバック,般化の5つの段階に分類される。 本研究では学級担任による学級SSTを進めるにあたって,これらの指導技法の専門用語をわかりやすい言葉に置き換えた上で指導計画を作成し,実践を行う。 図2-1は本研究で用いるSSTの基本的な技法と実際に指導者に提示する言葉を示したものである。 モデリング,教示,リハーサル,フィードバック,般化の5つの技法を「①やってみせ②言って69 第2章 効果的なSSTを目指して 図2-1 SSTの指導技法と提示の仕方
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