001総教C030705H30馬場最終稿
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68 ープ指導,学級全体を対象とした集団指導が考えられる。このうち個別指導によるSSTは本市LD等通級指導教室で多く実施されてきており,ソーシャルスキル育成の一端を担っている。また,グループ編成や指導時間の確保の難しさなどの課題はあるものの,グループ指導によるSSTも,その指導効果を見込んでLD等通級指導教室で実施されるようになってきている。これに対して集団指導によるSST(以下:学級SST)も近年の教育的課題に依拠する形で,少しずつ学級で行われるようになり,その実施数が増加してきている。それぞれの指導形態は長短を併せ持っているが,学んだソーシャルスキルを般化,維持させることの容易さに限って述べると,学級SSTは非常に優れた指導形態である。 一年次の研究でLD等通級指導教室でのSSTについて通級担当者への事前アンケートを実施した際,多くの担当者から「指導したソーシャルスキルを日常生活に般化させることが難しい」という指摘がなされた。これは,学んだスキルを使用する場所がLD等通級指導教室ではなく学級や家庭,地域であることに起因している。ソーシャルスキルを般化させようとする際,学んだスキルが実際の日常場面で使用されることと,使用したことに対してその場でフィードバックが行われることが重要である。しかし,LD等通級指導教室で学んだスキルを使用する場面は学級や家庭,地域である。環境が変わることでスキルを使うことができなかったり,スキルを使ったことに対してほめたりアドバイスしたりできる人物が存在していなかったりするなど,フィードバックに関わる環境の整備が十分でなかったことが考えられる。 これに対して学級SSTは,児童生徒が実際にソーシャルスキルを使用する教室が指導の場面である。そのためSSTと日常場面の間に環境的な差異が生まれることなく,児童生徒が安心してスキルを使用することができる。また,小学校においては,担任がSSTを行った場合,教科の学習や生活場面での児童のスキル使用状況や児童相互の関わりを観察できるので,継続してフィードバックを行うことも容易であり,より高い効果が期待できる。学んだスキルを日常場面で活用できること,それを維持することがSSTで最も重要であると考えるならば,学級SSTは学校の中で最も条件の良い指導形態であるといえる。 また,他にも以下のような利点が考えられる。 〈様々な場面で実施することができる〉 第3章で詳述するが,SSTやそこで用いられる技小学校 総合育成支援教育 6 (3)文部科学省「平成29年度 通級による指導実施状況調査結法は様々な場面での応用が考えられる。授業時間に1コマ分の時間を使用して行うSSTだけでなく,朝夕のショートホームルームや学校で設置されている帯時間での指導,後述するSSTの5つの指導技法を1日の活動の中に分散させた指導,活動中に生起した場面を用いた指導などである。児童生徒が普段生活している場に応じた指導を行うことで,児童生徒のソーシャルスキル育成の機会を逃すことなく実施することができる。 〈多くの児童生徒を同時に指導することができる〉 個別指導SSTやグループ指導SSTを実施する場合,指導する人員や時間,指導場所の確保等複数の問題が発生する。しかし,学級SSTは様々な場面で多くの児童生徒を同時に指導することができるので,指導効率が良い。学級には様々な児童生徒が在籍しているため,互いの優れたソーシャルスキルをモデルとして指導を進めることも容易となり,各々の自己有用感等を高めることにつながる。相川(8)はSSTを行う際「モデルと観察者に年齢や性別など類似点が多い場合に,モデリング効果が高まる」と述べており,学級SSTの指導形態はこれに適合したものであるといえる。 また,Michelsonら(9)は「ソーシャルスキルの般化には特定の相手との練習よりも多様な相手との関わりの中での練習が有効である」としており,これも学級SSTにおいて実現可能である。 〈相互フィードバックと受容感の向上〉 学級SSTでは学級の児童生徒全員が参加して共通のソーシャルスキルについて学習するので,お互いの行動上の変化に気づきやすくなる。 また,学級SSTで行われる学級担任によるフィードバックは,児童にとって良いモデルとなる。これにより,ソーシャルスキルをうまく発揮した仲間を賞賛したり,特定の児童生徒がソーシャルスキルをうまく発揮できないときに手助けをしたりすることが可能になる。 このようなソーシャルスキルの使用に関わるフィードバック環境が充実することで,担任がいない場面でも児童の相互フィードバックが行われるようになり,スキルの般化が促進される。また,学級内の困りを抱える児童生徒への受容感を高めることにもつながり,学級の親和的な雰囲気を醸成する基盤にもなる。 (2)文部科学省「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」2012.12.5

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