小学校 総合育成支援教育 5 り生じた何らかの結果がソーシャルスキルの未熟さを示すLD,ADHD,ASDに対し,ソーシャルスキルの未熟さを示す状態やそこから二次的に起こる不登校等の様態を指すのが情緒障害である。情緒障害が示す不適応状態はLD,ADHD,ASDが示すそれと酷似しており,結果的に発達障害が疑われたり,その傾向があるという認識のもとで指導や支援が行われたりすることがある。 このような児童生徒が学級に在籍し,困りを抱えているとすれば,先に述べたLD等通級指導教室への入級率も考慮したうえで,学級においても相応の指導や支援が必要であるといえる。 第2節 学級でのSST 児童生徒が学校生活の中で最も長い時間を過ごすのは学級であり,その時間は児童生徒のソーシャルスキルの育成や活用を促す上で有意義なものである。学級でSSTを実施することは,困りを抱える児童生徒だけでなく,その他の児童生徒の力もそれぞれの実態に合わせて伸長させることにつながると考える。また,単にソーシャルスキルの力を向上させることに留まらず,児童生徒全員のソーシャルスキルの力が向上することで,学級の良い雰囲気を作り出すことができるようになり,教科等の学習で必要な自主的に学ぶ姿勢,学級で協力しながら学びを高める態度などの基盤も作り出すことができるのではないだろうか。一人一人の児童生徒がそれぞれにのびのびと学び,関わりの中でお互いに認め合い,高め合うことのできる姿を目指したい。 河村ら(7)は,ソーシャルスキルを効果的に活用している子どもたちは,友人との交流も活発で学級生活の満足度が高くなり,また,子どもたちが積極的にソーシャルスキルを活用している学級では,学級が親和的で建設的にまとまっていくと述べている。学級の児童生徒のソーシャルスキルが未熟で対人関係に課題があると,学級自体が不安定となることが予想され,学級に在籍する困りを抱える児童生徒も落ち着いて過ごすことができなくなるのは容易に想像できる。そう考えると,個人のソーシャルスキルの不足を補う中で,より良い対人関係を築いたり,安定した学級を作ったりするのはもちろん,学級が不安定な状態になることを予防するという視点でも学級SSTは有効であるといえる。 学校におけるSSTの指導形態は,指導者と一対一で行われる個別指導,複数人を対象としたグル67 ルの不足による不適応も顕著となることはLDと同様である。 (ウ)ASD(自閉症スペクトラム) ASDは,同年代の他者との交流やコミュニケーションを行うことや,場の雰囲気の理解をすることに困りがある。また,感覚の特異性も困りにつながることが多い。これらの要因により,自覚のないまま人への思いやりに欠ける行動をとってしまったり,深い友達関係の成立が難しくなったりすることがある。また,集団行動が求められる場面で自分の想定と異なることが起きた時,その事態に合わせて考えを切りかえることが難しく,結果的に周囲と対立してしまうことがある。 これらの特性はソーシャルスキルの未熟さに直接的につながるため,当人のソーシャルスキルの力の向上だけでなく,周囲の友だちや教員が理解を深めていくことも必要である。 (エ)情緒障害 平成25年の文部科学省「教育支援資料」(6)において,情緒障害は「状況に合わない感情・気分が継続し,学校生活や社会生活に適応できなくなる状態」と定義されている。その症状の具体例としては場面緘黙,集団行動・社会的行動をしない,離席,反社会的行動,自傷行為などが挙げられており,発達障害と異なり,後天的であり症状自体がソーシャルスキルの未熟さを示すことが示唆されている。「情緒障害」とされる状態を引き起こす原因としては,対人関係に関わるストレスや学業,部活動などにおけるストレス,親子関係が築けていないことなどが示されており,これらを改善することと同時に,様々な場面に適応するためのソーシャルスキルの獲得が必要である。 LD,ADHD,ASDはいずれも先天的な障害であることが明らかとなっており,医療現場で実際に診断されるか否かに関わらず,学校での指導や支援が必要であるとされている。しかし,症状の軽重には個人差があり,困りとして現れる状況やその度合いは一様ではない。また,これらの障害は重なり合いながら存在することが多いため,あくまでその傾向があるという認識のもと一人一人に合わせた指導を行うことが必要であるといえる。 情緒障害は後天的なものである。その特性によ
元のページ ../index.html#7