64 図1-1 SST実施の流れ 補関係構築のあり方を考察した。実践の中では,ソーシャルスキルの測定及び指導効果の測定を行うために既存の尺度を利用したソーシャルスキルチェック表を作成,電算化し,視覚的に対象児童の変容を見とることができるようにした。これを基に,児童一人一人の困りに合わせたSSTを行うとともに,ミッションカード(後述)による指導内容の情報共有やストレスの解消に焦点を絞ったSSTを行った。 図1-1は1年次の研究のSSTの流れである。 ターゲットスキルの設定時は,学級担任,LD等通級指導教室担当者,児童の三者のソーシャルスキルについての評価を照らし合わせた。そこで明らかとなった得意とするスキルと苦手とするスキルを児童に提示し,児童自身が改善,克服を図りたいスキルを選び,これをターゲットスキルとした。児童自身がターゲットスキルを選択決定することで,毎回の指導時の学習の目標が明確になり,SSTにも主体的に参加する児童の様子が見られた。 実際の指導では個別指導,集団指導のSSTを,それぞれ2事例ずつ計4事例を対象とし,児童8名それぞれにターゲットスキルを設定し,具体的な指導計画を立て,週に1度,1回あたり10分から20分の指導時間を設定した。ここでは児童が繰り返しスキルを使用することのできる環境を設定することや,児童自身が今どのようなスモールステップに取り組んでいるのかを意識し,日常生活場面で円滑にスキルを使用し,般化につなげることができるように,指導に連続性を持たせることに留意した。具体的には学んだスキルの使用場所である学級や家庭で担任や保護者がより頻繁に,また,具体的に児童に声掛けをできるように,カード型補助教材を作成した。ここでは,LD等通級指導教室でのSST後,学んだスキルを日常場面で小学校 総合育成支援教育 2 使用することをミッションという形で提示し,在籍学級や家庭でスキルを使用した時にカードに記録していくこととした。学級担任からは「カードに書かれていることを子どもと確認しながら進め,スキルを意識しながら活動することができた」という声が聞かれた。また児童が在籍学級での担任の支援のもとでスキル使用に向かうことができた様子や,担任自身がLD等通級指導教室での指導内容に理解を深める様子も見て取ることができた。 ソーシャルスキルチェック表を用いたターゲットスキル設定やその変容の見取りは,ソーシャルスキルについての児童理解や評価を容易なものにし,今回の取組による成果を含め様々な場面で活用することができる可能性があることが明らかになった。また,実践を進める中で,SSTにおける主要な5つの技法(モデリング・教示・リハーサル・フィードバック・般化)を示した指導案のあり方や,それぞれのSSTに含まれるソーシャルスキルに関わる指導要素の多様性などが明らかとなった。さらに,指導時間の一部を統合することによって編成する集団による指導も,LD等通級指導教室での個別指導においてより効果的なSSTを行うために有効な方法であると考えられた。 この1年次の研究での実践によって,LD等通級指導教室で学ぶ困りを抱えるそれぞれの児童のソーシャルスキルに関わる力を育成することができ,日常場面へのソーシャルスキルの般化も促すことができたと考えられる。一方で,これらの取組をより効果的かつ円滑なものにするためには,LD等通級指導教室でのSSTだけでソーシャルスキルの育成を図るのではなく,在籍学級の環境を整えて,双方でSSTを行いながら内容につながりを持たせるような連続性のある指導を行う必要があると感じられた。 (2)LD等通級指導教室で学ぶ児童生徒 平成24年の文部科学省による調査(2)において,小中学校に在籍する「知的発達に遅れはないものの学習面,行動面で著しい困難を示す」児童生徒の割合は,小学校7.7%,中学校4.0%,合算して6.5%と推定されている。「学習面で著しい困難を示す」とは,「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の一つあるいは複数で著しい困難を示す場合を指し,「行動面で著しい困難を示す」とは,「不注意」,「多動性-衝動性」,あるいは「対人関係やこだわり等」について一つあるいは複数で問題を著しく示す場合を指している。同調査は
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