90 つまり,単一のスキルを育成しようとするSSTであっても,そこに含まれる様々なスキルの要素を事前に把握し,指導に生かすことで,より効果的なSSTとなるのである。 (2)実施負担の軽減 本研究では,困りを抱える児童を含め学級に在籍する児童全員のソーシャルスキルに関わる力を測定し,その結果を基に指導内容を決定,実際の指導後に効果測定を行った。いずれの場面でも指導者や児童の負担を軽減するための工夫を行ったのはこれまでに述べた通りである。ここでは実施負担をさらに軽減する可能性のある方法について二つ提案をする。 一つ目は,ソーシャルスキルチェックシステムの機能の限定使用である。今年度の研究では作成したシステムを公開し現場の指導者に活用してもらうことを想定している。そのため児童のソーシャルスキルの力を測定するという機能だけでなく,実際の指導場面で活用できるシートや補助教材も盛り込んだが,その動作確認やデバッグのために,研究協力校での実践の際にはシステム内の全機能を活用した。これら複数ある機能のうち,必要なもののみを使用する形にすれば,より少ない負担で学級SSTに取り組むことができると考えている。具体的には,今回担任と児童の二者で行った項目へのチェックをいずれかのみにする,4つのソーシャルスキル領域すべての設問ではなく特に気になる領域にのみチェックする,ソーシャルスキルの把握や効果測定を省きSSTシートとミッションカードのみ使用する等である。 二つ目は,SSTの実施時間の短縮である。3章第2節(p15)で少し触れたが,学級SSTを行う際,必ずしも45分の単位時間の中で指導する必要はない。今回の実践では,メイン指導-サブ指導という指導形態を用いたが,これを短時間で行う指導に切り替えて負担を軽減するのだ。特にメイン指導は指導回数を重ねるごとに指導にかかる時間を短縮できるように感じた。担任,児童がともに学級SSTの指導や活動の流れを理解した状態であれば,10分ないし20分で指導を完結させることも可能であると推測している。当然指導時間を確保したうえで行われる指導の方が児童の理解も深まることが想像できるが,45分間のSSTの実施時間が確保できない場合や,学級内でのトラブル等偶発的な出来事を利用した指導の場合は,気軽に設定できる短時間のSSTを行うことで負担が軽減されると考える。また,SSTを教科領域等の指導から独立した指小学校 総合育成支援教育 28 導として捉えるのではなく,あえて関連を持たせて指導することも時間短縮につながると考える。例えば教科領域の授業の中で「相手の話を最後まで聞いてから話す」というソーシャルスキルでのフィードバックを行ったり,教科で指導すべきことや生徒指導をSSTの手法を用いて行ったりするのである。 このようにして,学級の実態に合わせシステムの使用方法を変えたり各教科領域と横断的に指導を行ったりすることで,より少ない負担でSSTを実施することができ,同時に,より効果的に児童の育成を図ることができると考えている。これらの実現性や,全機能を使用した場合の長短所などについては今後の研究の中で実践しつつ検証していきたい。 おわりに 実践を終え,担任によるチェックや児童の自己評価の結果を用いて学級全体を俯瞰した時,ほとんどのターゲットスキルで児童の力が全体的に上向きにスライドした。これは,児童の社会性が培われたと捉えることができる。また,それにより学級の環境や,児童同士や担任―児童間の関係がより良いものになってきていると考えることができ,LD等通級指導教室担当者などと連携することでより効果的な児童の育成につながることも明らかとなった。 今後,本研究で作成したシステムを用いた実践が重ねられる中で,より効果的なSSTの形態や指導法などが発出し,学級の環境やその中の人間関係が醸成される中で,学級自体が困りを抱える児童にとってもより過ごしやすく,のびのびと力を発揮できる場となることが予想される。その際には現在は見えない新たな課題が生起するのではないだろうか。それを見越し,今後も指導場面に合わせたより良いSSTや指導のあり方などのソフト面と,ソーシャルスキルチェックシステムの他のデバイスでの動作環境整備などのハード面の充実を図る必要を感じている。 最後に,本研究の趣旨を理解し,教育実践に取り組んでくださった,京都市立下京渉成小学校と京都市立向島南小学校の学校長をはじめ両校の研究協力員,教職員の皆様に感謝の意を表したい。各校に在籍する困りを抱える児童が,学級やLD等通級指導教室等の校内資源,さらには家庭や社会の充実したサポートの中で指導や支援を受け,健やかに成長していくことを願っている。
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