第1章 児童生徒のソーシャルスキルを 本研究は一年次の研究を受け,より効果的なソーシャルスキルトレーニング(以下SST)の実施に向けて,困りを抱える児童生徒が在籍する学級をその実施場所とし,そこでのSSTのあり方を検証するものである。 一年次の研究では,困りを抱える児童生徒への効果的なSSTのあり方について検証するために,通級指導教室(本市では「LD等通級指導教室」と呼称:以下 LD等通級指導教室)におけるSSTに焦点を当て考察を進めた。ここでは,児童のアセスメントや指導効果の測定を行うための電算化したソーシャルスキルチェック表の整備や,学んだソーシャルスキルを日常生活で活用できるようにするための取組を行った結果,児童が主体的にスキルの獲得や使用に取り組む姿が見られた。それに伴ってソーシャルスキルチェック表による評価の前後比較においても成果が表れている。また,実際の指導の中で,指導するスキル(以下:ターゲットスキル)及びスモールステップの設定とそれを基にした指導計画やスキルの般化を促進するためのストレスマネジメント教育の有用性も明らかになった。 しかし同時に,これらの取組をより効果的かつ円滑なものにするためには,LD等通級指導教室でのSSTでソーシャルスキルの育成を図るだけではなく,在籍学級の環境を整えて,双方でSSTを行いながらつながりを持たせるといった連続性のある指導を行う必要があると感じた。 そこで2年次の研究では,困りを抱える児童生徒のより効果的なソーシャルスキルの育成のために,在籍学級の担任を中心とした学級でのSSTの必要性やあり方,LD等通級指導教室を含めた校内資源の活用法などについて小学校での取組を基に検証していくことにした。 学級でSSTを行うことで指導者である学級担任だけでなく,学級に在籍している全ての児童が同じようにソーシャルスキルの価値を理解することになる。また,モデルとなる仲間が身近に存在するのと同時に,担任だけでなく学級の仲間からもフィードバックが期待できるので,困りを抱える児童生徒が学んだスキルを般化しやすい環境を整えることができると考えている。そのような環境の中でもなおスキルの般化が難しい児童生徒を対象にLD等通級指導教室等で不足を補うための指導を行うといったシステムが構築できれば,その指小学校 総合育成支援教育 1 (1)文部科学省「特別支援教育の推進について(通知)」 2007.4.1 導の連続性の中でより効果的にソーシャルスキルの育成を図ることができるのと同時にLD等通級指導教室への入級待ち等の今日的課題の解消にもつながるのではないだろうか。 研究の中での具体的なSSTの内容については学級やそこに在籍する困りを抱える児童の実態に合わせて実施することとなるため後述するが,その充実を図るために特に次の2つの視点で検証を行う。1つ目は学級に在籍する児童のソーシャルスキルの力をどのようにして測るのかという点,2つ目は学級全体に対するSSTの中で困りを抱える児童の力を伸ばすためにどのように個別支援を行うかという点である。 平成19年4月の文部科学省による特別支援教育に関する通知(1)により各校で校内委員会が設置され,それ以来,困りを抱える児童生徒に対する指導や支援の充実が図られてきた。本市においても総合育成支援教育に関わる専門性の高い人材の育成やLD等通級指導教室,SSW,SC等の加配が行われている。児童生徒の指導や支援を行う上で多様な選択肢が得られるようになった現在は,困りを抱える児童生徒の指導や支援に関わる専門性の高い校内資源が整い,各校での総合育成支援教育が黎明期から成長期に入ったといえる。 この時節に今一度,児童生徒が学校生活の中で最も長い時間を過ごす学級に焦点を当てることで,学級担任が中心となって総合育成支援教育を実践することができるようになると考える。これにより,自らの専門性を高めながらLD等通級指導教室などの校内資源も活用することのできる担任が学級でSSTを行うことで,困りを抱える児童生徒に対する学級全体の受容感を高め,その内容をより効果的なものにすることができる。また,学級に在籍する児童生徒全体の主体性を円滑に育成するための,向社会的な学級の環境や雰囲気を醸成することもできるのではないかと考える。 第1節 困りを抱える児童生徒 (1)1年次の研究の概要 1年次の研究では,LD等通級指導教室で実施されている自立活動指導の1つであるSSTに焦点を当て,京都市のLD等通級指導教室の指導形態に即した効果的な指導法および通常学級・家庭との相63 はじめに 高めるために
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