第2節 より良い指導をめざして (1)スキルの同時指導の可能性 ここまで担任によるチェック,児童による自己評価からそれぞれ見えてきたことについて述べたが,ここではその分析の中で明らかになったことについて述べる。 本研究ではターゲットスキルやスモールステップなど,児童に指導すべきことを明らかにするために56項目からなる設問を用いた。これまでにそのうちターゲットスキルとして設定した項目についてのみ言及してきたが,その他の項目はどのように変容したのだろうか。 表4-4は,指導前後の児童の自己評価の素点合計の数値を比較した中で,数値が増加した児童と,そのソーシャルスキル領域を一覧にしたものである。 番号は児童の出席番号を,“○”は指導後に数値が増加し,指導の効果が表れたことを示している。最下段の合計はこれら○印の総数である。グレーに彩色された部分はA校で4項目,B校で3項目実施した学級SSTのターゲットスキルが含まれる領域であり,それ以外の部分は学級SSTを実施していない領域となっている。 グレー部の学級SSTを行った項目において,いずれの領域でも数値が増加している児童が複数存在小学校 総合育成支援教育 27 することが分かる。ではそれ以外の着色されていない部分はどうであろうか。グレー部と同様に数値が増加しているのである。合計値を比較すると実際に学級SSTを行った領域と遜色のない変容である。この傾向は評価点での比較でも見られており,担任によるチェックではより顕著に見られる。 昨年度実施したLD等通級指導教室での指導に特化した1年次の研究でも同様の傾向が見られ検証を行ったが,これは学級SSTで指導したスキルの中に他のスキルの要素が含まれていた可能性が高い。例えば「人前で適切に発表やスピーチをする」ためには「状況に合わせた適切な言葉づかい」や「聞かれたことに対してきちんと答えること」ができないといけない。また,「グループ活動や班活動に参加する」ためには「先生や友だちの話を集中して聞くこと」や「集団に向かって自分の考えを述べること」ができないといけない。これら鉤括弧に囲まれた文言はいずれも今回使用した56の設問項目に含まれているものである。つまり,ソーシャルスキルはそれぞれ独立して存在するのではなく,他のソーシャルスキルと互いに影響し合いながら存在しているのである。その結果,1つのソーシャルスキルの力が向上すると他のソーシャルスキルもその影響を受けて変容すると考えることができる。 また,ターゲットスキルの獲得のために設定するスモールステップも,他のスキルで応用することができるものが多い。例えばA校①の指導でスモールステップとして設定した「アイコンタクトをする」という行動は,元は「相手の目を見て話す聞く」というターゲットスキルの獲得のためのものであったが,「グループ学習や遊びに参加する」時や「あいさつをし」たり「誰かに分からないことを質問し」たりするときにも用いることができるのである。 さらに,今回取り組んだ学級集団を対象としたSSTの学習環境も,その指導の中でロールプレイを中心とした話し合い活動等にコミュニケーション要素を含んでいるため,好影響を示したと考えることができる。 これらのことから,ターゲットスキルやスモールステップを設定し構成するSSTでは,児童の困りの軽減や解消が期待できるだけでなく,そのSSTに含まれるその他のスキルの育成にもつながることが明らかとなった。これを視野に入れて同時に複数のスキルを意図的に指導することができれば,より効果的に児童の育成ができるであろう。 89 表4-4 素点数値の増加とソーシャルスキル領域
元のページ ../index.html#29