001総教C030705H30馬場最終稿
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88 表4-3 困りを抱える児童の変容一覧 これらのことから,一連の学級SSTの中でM児のソーシャルスキルの力が培われていることが分かる。 また,スキル①②では,指導後の担任・児童のチェックした数値が等しくなっている。これは学級SSTの中で,スモールステップとして好ましい言動のモデルが具体的に示されることで,担任と児童がそのスキルの価値を共通理解したことが影響していると考えられる。学級SSTが実施されるたびに,それまで少なからず相違のあった担任と児童のスキルに対する認識が擦り合わされるのであれば,以後の指導も円滑となり,学級経営やその中で行なわれる学習指導にも好影響をもたらすことが推測される。 表4-3はA校B校で困りを抱える他の児童の変容を一覧にしたものである。 A校では先に挙げたM児と同様に指導の効果が認められる結果となった。K児は実践内で使用したミッションカードでの取組に大変な興味を示し,日常的にスキルを使用しようとする姿が印象的であった。カードの記入マスが不足したM児は,追加のカードを順に貼り合わせて得意満面で,やり取りや表情からはスキルを使用する中で得た満足感や達成感,さらには自己肯定感を見て取ることができた。 小学校 総合育成支援教育 26 N児は,担任によるチェックの数値がすべて増加しており,指導後の担任と本人のチェックの数値もすべて一致している。学級SSTの指導中やミッションカードでの取組に対してK児ほど意欲的な様子は見られなかったが,担任や友達のフィードバックの下,地道に取り組んだ結果であると推測できる。 B校では児童の自己評価でのみ変化が見られた。 Y児の指導後のスキル①②の自己評価の数値は“0”である。“0”は「当てはまらない」という選択肢を選んだことを示しており,指導により好ましい変化が表れなかったことが分かる。今後担任や学級の児童によるフィードバックやLD等通級指導教室での指導の中で,繰り返しそのスキルを想起させることでスキルの獲得を目指さなければならない。一方でスキル③での指導後の自己評価は2ポイント増加しており,自己評価の中では唯一ソーシャルスキルの力が向上したスキルと考えられる。スキル③は「行動する前にじっくり考える」というものである。このスキル③とスキル①②では指導過程に明らかな違いがあった。それはLD等通級指導教室での追加指導の有無である。③のみ学級でのメイン指導の後に,その中で使用されたワークシートの同じ形式の追加教材を用意し,個別指導の中で指導を行っている。ここでの指導の前にはLD等通級指導教室担当者による通常学級の参観も行われており,学級SSTでの指導の中での活動も踏まえた指導がなされている。このことから,学級SSTで学んだソーシャルスキルを般化するにあたって, LD等通級指導教室と在籍学級間の連携の取れた指導を行うことがY児にとって有効であることが明らかとなった。逆に考えると,Y児にとって,学級SSTだけでその力を伸ばすことは現時点で難しいといえる。 H児はY児と同様にLD等通級指導教室で指導を受けているが,主として他の児童と一緒に学ぶ集団指導の中で学んでいる。スキル③の学級SSTの際その様子を参観したLD等通級指導教室担当者は,「Y児は学習の流れや場面ごとの状況理解ができていない状態であった」と述べており,筆者も同様の印象を受けた。ターゲットスキルの内容の理解の可否ではなく,その前の段階で困りを抱えている状態である。これを解消するためには学級SSTの中でY児に対する個別の支援を充実させるとともに,LD等通級指導教室等も含めた指導の充実や学校体制の中での連携やサポートの必要があるといえる。

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