86 A校①②④,B校②で見られ,A校①②においては指導後の自己評価の中で,全ての児童が「当てはまる」もしくは「やや当てはまる」を選択している。 それに対し,A校③「時間を守って次の行動にうつる」というスキルでは,指導前に「当てはまる」もしくは「やや当てはまる」と回答をしている児童がそれぞれ64%,30%であったものが,指導後に40%,50%と変容しており,「あまり当てはまらない」という回答も3%から10%へと増加している。B校①も同じような変容を見せており,いずれも児童の力が減退したことが見て取れる。これが先に述べた素点合計の数値減少の要因であると考えた。 この結果については,学級SSTの形態や進め方において他のターゲットスキルのものと大きな違いは認められなかったため,児童一人一人の回答内容を中心に考査したが,明確な原因を明らかにするには至らなかった。あえて仮説を立てるとすれば,児童のソーシャルスキルに対する捉え方が変容したことで,数値が減退したのではないかと考えられる。その理由として次に述べる2つが考えられる。 1つ目は,指導によって捉え方が変容するものである。例えば,ソーシャルスキル尺度の質問項目の一つとして“善いことをしてもらったら「ありがとう」とお礼を言うことができますか”というものがある。人の行為にお礼を述べるというソーシャルスキルに関わる質問であるが,この質問に対して多くの児童は「3.当てはまる」を選択する。なぜなら多くの児童が「ありがとう」という言葉を既に身に付け,使用してきているからである。しかし,このソーシャルスキルについて学ぶ際,「なぜ嬉しいのか理由をつけて,相手の目を見て,正しい言葉づかいで「ありがとう」という気持ちを伝えましょう」というように,スキルをより具体的に指導されたらどうだろうか。恐らく,スキルの捉え方は変容するであろう。この状態で指導後の自己評価を行ったとすれば,自己評価での数値は減少することが想像できる。 2つ目は,指導後の取組により捉え方が変容するものである。本研究ではスキルの般化を促すためにミッションカード・シートを用いた取組を行ったが,その際,前述の通りスキル使用の目標回数を掲げた。しかし実際にスキルの使用回数を記録していくと,当初児童自身が考えていたほどは回数が伸びず,結果的に目標達成できないまま取組期間が終了してしまうことが起こりうる。目標小学校 総合育成支援教育 24 回数を達成できないのは目標の設定値が課題であることがその要因であるが,「自分はこのスキルを使うのは苦手なんだ」等の感覚を持ってしまうことが考えられる。これにより自己評価での数値が減少した可能性がある。 いずれも仮説の域は出ないが,このような理由で数値が減少しているのであれば,児童の力が減退したというわけではなく,スキル獲得過程での一時的な姿と捉えることができ,継続してフィードバックしていくことで,力の向上を図ることができると思われる。今後,サンプルを複数用意した上でさらに検証を進めていきたい。 (3)担任によるチェックの分析 担任による児童の評価は,児童の自己評価と比べ客観性が担保されたものである。また,学級に在籍する児童全員を対象とすることで,相対的に児童の力を比較することができるので,結果として示される児童間の数値の差が妥当性の高いものであるといえる。一方で,実際に児童を指導する立場にあるものの行う評価であるので,評価期間終盤の出来事が強く印象に残ったり,評価が甘くなってしまったりすることで実態との間にずれが生じる可能性がある。これらのことに留意しつつ検証を行った。 図4-4はA校における学級SST④でターゲットスキルとして設定した,「相手の話を最後まで聞いてから話すことができますか」という項目に対する担任のチェックの結果をグラフで示したものである。 全30名の児童へのチェックに占める4つの選択項目の占める割合を示している。指導前(7月)のグラフでは,「当てはまる」もしくは「やや当てはまる」と回答をしている割合がそれぞれ70%,17%となっており,「あまり当てはまらない」「当てはまらない」と回答した児童はそれぞれ10%,3%で図4-4 担任のチェックの変容
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