通常学級では,多くの場合45分を授業時間として各教科領域の指導が行われ,各時間1つの学習目標の達成に向かう。それに対し,LD等通級指導教室では,児童の実態に合わせて45分の授業時間をいくつかの時間枠に分割し,それぞれの時間枠の中に複数の目標を設定し指導を行っている。今回参観したY児の場合は「一週間の振り返り」と「気持ち研究」という項目を中心に指導が進められていた。前者で生活の中であったこと,特に友達とのトラブルを想起し,後者ではトラブル回避や感情コントロールの方法を,身に付けるという内容である。 80 図3-4 LD等通級指導教室での指導時間枠の例 (3)LD等通級指導教室との連携 1年次の研究ではLD等通級指導教室のSSTで学んだソーシャルスキルを活用,定着させる場として学級を捉え,LD等通級指導教室からその指導内容を発信し,スキル使用の環境を整えることを目指した。ここでの経過や課題を踏まえ,本年度の研究では学級でSSTを行うことで,在籍する児童全員にソーシャルスキルを活用,定着させ環境を整えるのに加え,困りを抱える児童についてはLD等通級指導教室との連携を含めてより効果的なソーシャルスキルの向上を目指した。 学級SSTを行った2校のうちB校の学級には,校内のLD等通級指導教室に入級している2名の児童が在籍していた。このうち1名の通級教室での指導を継続して参観し,学級での指導とLD等通級指導教室での指導の連携のあり方を考察した。 図3-4はLD等通級指導教室における指導の時間枠を例示したものである。 「一週間の振り返り」は,LD等通級指導教室担当者と学級担任の連携の中で把握した,Y児の周囲で起きたトラブル等を再度本人に振り返らせるというものであり,B校①のスキルに関わる指導である。ここではトラブルの際に起こった言い争いや教室からのエスケープという事象だけでなく,時間を掛けてその発生順序や当事者の発言などを丁寧に整理することで,相手だけでなくY児自身の心情も明らかにする工夫がなされていた。 図3-5は指導の中で作成された板書を再現したものである。 このように図示することはY児の理解を助けるものになっていた。この指導の中ではY児の行動を変小学校 総合育成支援教育 18 容させるのではなく,認知の修正を図ることが重視されていた。出来事を想起した時には少しこわばった様子も見られていたが,出来事の図示が終わるころにはリラックスした様子で,次に同じようなことが起こった時にはどうするかという対処方法を考える姿が見られた。本人が最も理解しやすく,同時に心情面を安定させるというLD等通級指導教室担当者によるオーダーメイドの指導法である。 これらの指導の後,「気持ち研究」では担任や通級担当,本人によるY児の人物像をツリー表示したものによる自己認知を促す学習や呼吸法,漸進性筋弛緩法などリラクセーションに関わる技法の学習などが行われた。 LD等通級指導教室で実施されるこれらの指導はY児の学級で抱える困りの解消を目指したものであり,担任―通級担当間の児童の状態把握やそれぞれでの指導内容を把握したうえで行われるものであった。本研究の実践中も通級担当者が学級でのSSTの内容やその時のY児の様子を参観することで,学級SSTでの不足を補う指導や,次回以降の指導に向けた事前指導が行われた。 Y児が在籍するB校の学級で指導を行ったターゲットスキルのうち,①感情的になっても気持ちをうまく切り替える と③行動する前にじっくり考える は学級に在籍する児童全体の課題であるのと同時に,Y児にとっても習得すべきソーシャルスキルである。これらを通級担当が学級での様子を参観することで指導者が事前に指導内容を共通理解することにつながり,指導する際それぞれの指導場面での不足を補いやすくなっていた。また,同時に同じ課題解決を目指し指導を進めることは密な連携にもつながっていた。さらに,学級で用いたワークシートや活動の様式などを把握しておくこと図3-5 一週間の振り返りでの板書
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