由であえて設定した。例えば,②であれば「相手に合わせた言葉づかいをする」というスキルの獲得を目指すが,実際の場面でスキルを使用することを想像すると,このスキルでは少なくとも“相手が誰であるのか”“どのような場面であるのか”“何を伝えようとするのか”という3点について考慮する必要がある。小学校低中学年児童対象に指導するのであればこれらをさらに細分化し「地域の人と学校で出会ったら,丁寧な言葉で話す」「授業中,意見を発表するときは「です。」「ます。」をつける」といった具体的なスキルを複数回指導していく形になる。しかし,この形をとるとスキルを獲得するまでに多くの時間を費やすことになる。そこで,第6学年が対象のB校では1コマの指導の中に様々な状況や場面を設定し指導することでターゲットスキルを包括的に理解できるようにした。具体的には,カードに記された複数の場面を繰り返しロールプレイする活動を行った。ここではそれぞれの場面に対してグループで意見交換をしながら取り組む児童の姿が見られ,「友達に係活動の相談をするときは敬語を使うべきかどうか」といったことについてお互いの思いを交流し,その友達と自分の関係や内容の軽重などについて思いを巡らせながら考える児童の様子が見られた。 実際の指導場面ではこの例のように,含まれる要素が多く,単一の模範的行動だけでは好ましい結果を得られないソーシャルスキルも存在する。そこで,児童の発達段階を加味して抽象的にスモールステップを提示し,前述の二段階SSTの手法を用いて力の育成を目指し,同時にその指導効果を検証することとした。 第2節 指導 (1)指導の形態と二段階SST スモールステップを具体的に提示するか,抽象的に提示するかによって,指導の形態も工夫する必要が生まれた。ここでは提示方法と指導形態の組み合せについて述べる。 学級でSSTを実施する際には,いくつかの時間設定が可能である。本研究では,学級SSTの実施をする時間枠として次の4つを想定した。 A)1時間の授業で B)朝学活や終学活等の帯時間で C)1日のスパンで D)機会を利用して A)は他の教科領域等の指導と同様に45分の授業時間を用いるもの,B)は学校裁量で設定される帯小学校 総合育成支援教育 15 時間等の短時間で行うもの,C)はSSTの5つの技法を,朝学活で「やって見せ」,休み時間明けに「言って聞かせて」,給食後に「させてみて」といった形で一日の様々な場面に配置するものである。D)については,予め指導時間を設定するのではなく,偶発的な出来事を題材に指導をするものである。 研究の性質上A)及びB)を実践の場として設定し,C)及びD)については研究協力員である学級担任の裁量で行うこととした。さらに,A)での指導をメイン指導,B)での指導をサブ指導と位置づけ,1つのスモールステップを“メイン指導―サブ指導”を使って指導することにした。このメイン指導とサブ指導の間にはスキルの内容に合わせて一定期間を設定し,その中でスキル般化に向けた取組を行った。 表3-3は,スモールステップの特徴とメイン―サブ指導での指導内容をまとめたものである。 具体的なスモールステップの指導の際はメイン指導の際,単一のスキルを指導し,期間をおいて行うサブ指導で二段階SSTを行った。 例えばA校の①では「アイコンタクトをする」という具体的なスモールステップを指導した。ここでのメイン指導の構成は“なぜアイコンタクトが必要なのか”“アイコンタクトとは何なのか”“アイコンタクトの練習をしよう”というように扱う内容をアイコンタクトという単一のスキルに終始させた。この指導を受けておよそ1週間スキルを使用した児童に対し,サブ指導を行った。サブ指導では,「うまくスキルを使えなかった場面はありませんでしたか」という発問をきっかけとして,「ずっと目を見ているのはなんだか恥ずかしい,どうすればいいのか。」「電話や手紙などアイコンタクトできない場面ではどうするのか。」などスキルの応用場面を想起させ,様々な場面でスキルを応用できるようスキルの柔軟性の向上に焦点を当てた指導を行った。 抽象的なスモールステップの指導の際は,1時間目のメイン指導の中で二段階SSTを行い,それを受ける形のサブ指導では日常場面でのスキル使77 表3-3 スモールステップの特徴と指導内容
元のページ ../index.html#17