74 (3)SSTシート 本市ではSSTを行う際の特定の指導案形式は存在しない。授業時間にとどまらず,実態に即して様々な場面でSSTを実施することで,児童のソーシャルスキルの力を向上させることができるという考え方に基づけば,これは理にかなったものであるといえる。指導案を作成して実施する授業だけでは児童のソーシャルスキルを般化させることが難しいからである。しかし,指導の際にその道標となる指導案が存在しないとなれば,SSTやその手法を用いた指導自体が行われない可能性も考えられる。 1年次の研究ではモデリング,教示,リハーサル,フィードバック,般化のSSTの5つの指導段階を示した指導案様式を作成し,それぞれの段階ごとに活動内容や方法,発問などを詳細に記し,それを用いて実践を行った。これにより,SSTで求められる基本的な5つの技法を漏らすことなく指導することができたが,その一方で作成に相応の時間がかかった。詳細な指導案は指導者の意図を他者に伝える上で役に立ち,同時に再現性の高いものになる可能性がある。しかし作成に時間がかかりターゲットスキルの指導や業務に支障を来してしまうものであれば,当然作成されなくなり,その結果SSTの実施回数も減ってしまうことが予想される。 そこで,2年次の研究では前述の「①やってみせ②言って聞かせて③させてみて④褒めて 助言し⑤使わせる」の学習場面ごとに指導手法を選択したり,指導のめあて,般化の方法などを整理しながら記入したりすることで1単位時間の指導計画を作成できるシートを作成した。 図2-7は実際に使用するSSTシートである。 不要な部分をできる限り排し,シンプルなものにすることで作成時間を大幅に減らすことができるのと同時に,指導の骨子を捉えられるようになる。これにより,指導中の児童の様子や活動に対する反応に合わせて柔軟に指導ができるようになると考えた。 指導の中で学んだソーシャルスキルの使用回数を記録していく。一定期間,カードを使ってスキル使用を目指し,次回の指導の際,その進捗を確認し,どのような場面でスキルを使うことができたのか,その時に思った通りになったのか,相手の反応はどうであったかということについて振り返りを行う。 図2-7 SSTシート 小学校 総合育成支援教育 12 (4)ミッションカード 1年次の研究では毎回のSSTの指導の後に,学んだスキルを在籍学級や家庭で使用する,という課題を設定し,学習場面と日常場面のスキル使用に連続性が生まれることを目指して,ミッションカードという名称のカード型補助教材を作成した。この教材を使用することで,児童が繰り返しスキルを使用することができただけでなく,その姿を見た担任や保護者など周りの大人からのフィードバックが得られる様子が見られた。 2年次の研究においても学級SSTで学んだソーシャルスキルの般化を促進するために,同教材を学級及びターゲットスキルに合わせて再構成して使用する。 図2-8は使用するミッションカードである。 自分で期間中の使用回数の目標を設定し,自主的な取組を目指すとともに,筆箱,児童机など普段から目にしやすい場所に片づけておくことで,カード自体が目に触れるようになり自分が取り組んでいるスキルは何なのかということについて想起することもできると考える。 (5)二段階SST 学んだソーシャルスキルを日常生活に般化させるためには,繰り返しスキルを使用し,周囲からフィードバックを受ける中で成功体験をすることが大切である。しかし,実際には学んだスキルを使った全ての場面で良い結果が生まれるというわけではなく,失敗を経験することもある。これは,スキルを使用した場所や雰囲気,その時の相手の感情などによって結果が左右されるためである。このように,スキルを的確に使用したにも関わらず失敗してしまった時,児童がそのスキルの使用を止めてしまったり,SSTで学ぶことの効果に意味を見いだせなくなってしまったりすることがある。図2-8 ミッションカード
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