第1節 成果について 本研究における「学びへ向かう力」とは,「言葉を通じて,自分で考え,考えや思いを表現しようとし,他者と交流したり,テキストに向き合ったりすることを通して,自分の見方や考え方を広げ深めようとする力」と定義したが,実践を進める中で「まず自分で考えること」と「対話を通して自分の考えを深め広げること」の間には「受け止める力」が存在するのだということに気付かされた。授業の中で,自分で,あるいは他の人が言いかえたり,「~ということ?」「~ということではないか」と問い返したり,「ここにこう書かれているということは…」と根拠を探したりしながら学びを深めていく姿が度々見られた。さらに「他の人はこう言っていたけれど…」「前はこう考えていたけれど…」という発言や記述も多かった。これらに共通することは,過去の自分や自分以外の誰かの言葉,テキストや作者の言葉を受け止めようとしていることではないだろうか。まず自分の考えがあり,最初の自分以外の考えを受け止めるからこそ,新たな考えが生まれたり,自分の考えが明確になったりするのではないかと考えている。 また本研究は,生徒自身が学びの自覚を得ることが,「学びへ向かう力」につながるのではないかという仮説に基づき実践を進めてきた。生徒の授業の振返りには,「考えが広がった,深まった」「違った見方ができた」「自分の考えがはっきりした」という記述が非常に多く,学びの自覚が得られたと言えるのではないかと考えている。実践後の事後アンケートにも同様の記述が目立っていた。 ◆A校の事後アンケートから ・もともとはなんとなく内容を理解したくらいだったけれど,学習の最後の方では細かいところまで見ていき,もっと知りたいことなどが出てきた。 ・友達の意見を聞いて,自分の考えに生かせた。 ・自分の意見をはっきりさせて,そこからさらにどうなったかを詳しく考え,調べるようになった。 ・最初は自分の意見が書けていなかったけど,自分の意 多くの生徒がこのような記述をしており,学びの自覚が得られたと同時に,「こうしていきたい」という自ら学ぶ意欲をもてたのではないかと感じている。最後の生徒の「自分が何を思い,どう考えて答えを出したのかを文章や言葉で表す力」という言葉は,まさに本研究の要でもある「内言を 外言化する力」ということであり,国語科で育成 を目指すべき最も大切な力であると考えている。 見が書けるようになった。最初は難しいことはそのままにしておいたけど,今はむずかしいことも全力で取り組んでいる。 ・今までは,自分の考えを持っていてもうまく言葉に表せられなかったり,そんなことがあったけど,今では伝えるための言葉や根拠が増えて,うまく言葉で表せられる。 ・前までは具体的な理由が見つからなかったけれど,二つの授業を通して具体的な理由が見つかりやすくなった。振返りも書きやすくなった。これからも具体的な理由を見つけて考えをもちたい。 ◆B校の事後アンケートから ・今まであまりやったことのないことをしたので,今までの学習の中で一番深くまで理解できたし,理解すればするほど「なるほど!」と思えて,学習が楽しくなった。だからこそ,考えることもたくさんあって,自分の中にある知識(国語力)が増えた。 ・他の人と交流し合うことで,自分だけの考え方にとらわれずに,いろいろな表現を学ぶことができて,語彙力を伸ばすことができた。 ・(相手を納得させるためには)まず本文をしっかり読み,内容を理解しなければいけません。なによりも僕は討論を行ったとき熱がこもっていたぐらい本気になりました。冷え込み始めた秋にも関わらず,半そでで汗をかくほどでした。何事においても本気になれるのはよいことだと思いました。 ・1回だけ読むのではなくて,何度も読んだり,人との交流の中で自分の考えも変化してきたので,1回だけでは筆者の考えを読み取れないと思いました。また,何度も読むことで筆者の考えが伝わってくるので,これから何か読むときは何回か読んでみようと思います。 ・1つの問いに対し,2つの答えがぶつかりあったとき,自分が何を思い,どう考えて答えを出したのかを文章や言葉で表すときに必要な力を学ぶことができました。また,他の人の意見や質問への返答の仕方やどうすれば納得してもらえるかを改めて考えることができたのですが,まだ表現力が足りなかったり,語彙力の差があったりしたので今回足りなかった部分や学んだことを生かし,今後の授業を受けたいと思います。(下線は筆者による) 中学校 国語教育 27 くるが,明らかに読み取りに誤りがある場合は訂正する必要もでてくる。また,授業での様子と比較し,生かせていることや伸びているところを記入すれば,より効果的であると考える。 第4章 実践研究を通して
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