①書く (最初の表出) ⑥振返り(自分) ⑤書く (最後の表出) と書き続ける姿が印象的であった。 他の学級でも「暴君ディオニスの考え方は間違っているか」「セリヌンティウスを人質にする必要があったのか」などのテーマが選ばれ,同じように討論を行ったが,どのテーマにおいても作者の意図に納得するという結果になった。その理由は,本文に忠実だったからだ。討論をしていくうちに「何ページの何行目に~と書いてあって」「何ページから~ということが分かって」と説明することが増え,そのたびに討論中の生徒だけでなく,聴衆の生徒も教科書をめくり「ほんとだ」と声を挙げている様子も多く見られた。このような活動の結果,自然と作者の意図を読み取ろうとし,その意味にも気付いていったのだと思われる。聴衆がこのように積極的に参加できるかどうかも重要である。討論をしているメンバーは時として冷静さを失ったり,趣旨からずれてしまったりすることがあるが,そのときに「話がずれていると思います」という聴衆の指摘によって,本題に戻ってくる場面もあった。討論をするにしても,聴衆になるにしても,それまで時間をかけた学習が生きるのだと感じた。 ノートの使い方は説明的文章の実践と同様のため省略し,ワークシートと生徒の記述のみ紹介する。 図3-6は実践で使用したワークシートである。 ①表出(最初) 【人の決意の力】 メロスが友を救うために走った時には,とても早く走れていたけれど,心が折れた時には全く体が動かなかったから。また決意を固め直したときには疲労困憊だったにも関わらず,風のごとく走りぬけることができたり,花婿の頑強な考えを崩したりできたから。 ⑤表出(最後) 【人の弱いところに打ち勝つ姿】 どんな人にも必ずしも弱いところがあります。例えば,テスト中にゲームがしたい…そして人質のことなんかなげだして生きていたいなどがあります。人はそれぞれそれに打ち勝ったり負けたりしながら今を生きています。作者は,そんな人の弱いところをあえて何ページも書くことによって,メロスは特別な人間などではないことを読者に教えています。そして,そのなんとも平凡な人間が人質を助けるためにどのような力を使うのか,どのような苦悩が起きるのか,その起こったことを自分に重ね合わせて読者が読めるようになっていると思います。何度も弱いところを見せているのは,もう一つ理由があると思います。それは,どんなに悪魔がささやこうと,人は一度決めた大きな目標を曲げることはないということです。メロスはあきらめかけてしまいましたが,自分をまた奮いたたせて,目標達成のためにまた走り始めました。このように,人は強い意志と大きな目標があれば何でもできる、弱い自分にも打ち勝てるということを伝えたかったのだと思います。 (下線は筆者による) 中学校 国語教育 25 この生徒は,自分以外のグループの討論と,討論をした相手側の主張にあった「人間としてのメロス」という内容に影響を受けていることが分かる。勇者の前に一人の人間であること,人間は誰にでも勇者になれるという新たな気付きがあり,読みも深まっている。他にも「あきらめなければ希望はまだあるということ」から「人とは何か」,「友情,努力,勝利の意味」から「人の心の信実(三人それぞれの陰と陽の心)」など変化している生徒が多かった。最初からあまり変わっていない生徒も,説明する内容が具体的になっていたり,視点が変化したりしている様子が見られた。 そして,人間らしさを考える上で「例えばテスト中に…」という自分たちのことに置き換えながら考えていることも分かる。他の学級の討論でも「勇者はゼウスに願うなど他力本願のようなことはしない」という意見に対して,「自分たちも受験前にお守りを買ったり,神頼みをしたりすることはある」と反論する場面があった。人間らしいメロスについて考える中で,生徒自身と作品,作者⑥振返り(交流) 図3-6 『走れメロス』ワークシート
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