001総教C030705H29最終稿(河合)
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いと思います。1回寝たら回復できるのに,結婚式の後にも寝て,セリヌンティウスの命がかかっているのに2回も寝ている暇はないと思うので×です。」 反論の例 「メロスだって人間だから寝ると言っていましたが,フィクションだから寝なくてもいいと思いました。」 「いくらフィクションであるとはいえ,一人の人間がこう何ていうか友情の絆をもって構成されている物語なので,メロスが勇者とかそういうフィクションとか言う前に,そういう一人の人間として立たせる必要があったと思います。なので,人間として必要なこと最低限書き表すのは必要だと思います。」 聴衆との応答例 「必要である派に質問です。太宰治さんは,なんか『人間失格』っていう本を書いているじゃないですか。他の作品の題名で人間失格って言っているのだから,この『走れメロス』もそういう視点で考えるとフィクションでいいんじゃないですか。」 「だから,人間として立てる必要はないと?」 「そうそう。」 「『人間失格』という本はわたしの情報が確かだったら…(この後,書かれた時期が違うことを説明する。)」 (メロスは狂っていない派の主張) メロスは狂っていません。なぜなら,そもそもセリヌンティウスを助けているし,途中寝ているのも,疲れていて寝るのは人間なら仕方のないことだと思います。それに人間ならそんな状態で起きていられるわけがありません。終盤の方では「メロスは覚悟した」のように自分の友のために身を捨てようと助ける勇者らしい考えをしているので狂ってはいないと思います。えーそして,自分で勇者と言っている場面でも,一人で走っているため根性を引き出して,自分を鼓舞するためにそう言っているだけだと思います。それに初めの場面では激怒していたり,人を疑うのが嫌いというのは,ごく普通の人間の考えなので,人間として当たり前なのでメロスは狂っているわけではないと思います。 この討論では,メロスは勇者である前に弱さも併せもつ一人の人間であり,そのことを作者は伝えたかったのだという一貫した主張が聴衆にも評価されていた。注目すべきことは,最初は「なんでやねん」と物語に突っ込んでいた生徒たちであったにも関わらず,他の討論でも「メロスは狂っていない」「題名はふさわしい」という作者の意図に沿った主張に説得力があると感じていたことである。その二つのグループの主張は以下のようなものであった。 (下線は筆者による) (走らないシーンは必要である派) 「人質」っていう題名にすると,人質を助けるためだけにメロスは走っていることになります。「走れメロス」というタイトルにすることで友達を助けるという意味もありますが,自分の信念を貫くことであったり,王に人を信じてもいいんだと教えるため,民にも王にも人を信じてもいいということを見せつけなければならないので,それを伝えるために「走れメロス」がいいと思いました。また「走れメロス」っていうタイトルは,メロスに語りかけているような題名だと思いました。セリヌンティウスか民衆か,走れメロスと思っていたのは,もしかしたら王様が「走れメロス」と本当は人を信じたいと思っているけど信じてないと口で言ってるだけかもしれないので,そのみんなの思いがつまっている題名だと思います。それに,裏切らないで応えてると思うと,最後のところで出てくるのでこのタイトル「走れメロス」がふさわしいと思います。 (下線は筆者による) メロスの友達の石工はメロスが必ず戻ってくるとメロス のことを信頼していたからずっとメロスは戻ってくるといいつづけたところから。 表出(最後) 「人の心などの弱い部分」 人質ではメロスの弱い部分は書かれていなくてメロスは勇者と言っている。でも走れメロスの方では自分でセリ ヌンティウスを人質にしておいてねたり走らないシーンがあった。これは人は人質みたいに強部分だけしかない 人ではありえない,人は必ず弱い部分をもっているということを伝えたかった。なぜならこの世の中に弱い部分 をもっていない人はいないと思うから。 中学校 国語教育 24 どちらのグループも,本文をよく読み込んでいることが分かる。また,ここでも人間としてのメロスがクローズアップされていたり,多様な見方を取り入れたりして主張していることが分かる。さらに,題名については「語りかけているようだ」と指摘し,『モアイは語る』の学習とのつながりも見られる。このような討論を経て,ほとんどの生徒に変化が見られ,国語に苦手意識をもつ生徒にも当てはまった。以下に,その生徒の例を挙げる。 表出(最初) 「信頼関係をたいせつにしようということ」 適切な表現ができていない部分もあるが,確実に読みが深まっていることがわかる。最初の主題も『走れメロス』の主題として間違っていないが,学習を通して,作品との距離が近づき,様々なことを自分なりに考えたことが見取れる。討論後,もう一度主題について書く時間があった。そのと きの,一人一人が教科書やノートと向き合い,黙々

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