第2節 授業を進める上での工夫 (1)課題設定について ◆A校・説明的文章1年 【課題A】筆者の考えに納得できるかできないかを書く。その理由も書く。 最初の課題であり,最後にもう一度考える課題 でもある。支援の一つ目のポイントは,納得できるかできないかという2択にしたことである。どちらかを選ぶという形であれば,苦手な生徒も取り組めると考えた。二つ目のポイントは,できるだけどこが納得できないのかなど理由を書くようにはするが,「なんとなく」でもよいとしたことである。それでは書いたことにならないという意見もあるかと思うが,最初の段階で全員が課題に対して明確なことが書けなくてもよいと考える。最初から苦手な生徒が書けるように教師が働きかけをすることは可能だが,それは「教える」ことになる可能性も高い。 また,最初から全員が読んで考えたことを書けるのであれば,その学習をする必要はないとも考えられる。生徒の「なんとなく」には,理由がある。その理由がはっきりと説明できないのであれば,授業を通して少しでも説明できるようになることに意味がある。結果的に,最初に選んだ答えと異なることになっても,最初の「なんとなく」には価値がある。「なんとなく」と書く生徒こそ,学んだことがより自覚できるのではないかと考えている。 【課題a-1】筆者が正しいと判断した仮説につい て,仮説1担当と仮説2担当に分かれて,本当に提示されたデータだけで判断できるのか考える。 【課題a-2】学習班で仮説1と仮説2について提示されたデータだけで十分か十分でないか考える。十分でない場合は,どのようなデータがあれば,より説得力が増すか考え,提案する。 筆者の主張が間違っているということを指摘するのではなく,筆者の考えの根拠として提示されているデータだけで納得できるかということを考えるようにした。そのように考えることで,筆者の考えと事実のつながりについて整理でき,さらにどのようなデータがあればよいか考えることで自分なりの考えをもてると考えた。また,最初から学習班全員で考えるのではなく,自分の担当を決めることで,より焦点を絞って考えることがで 中学校 国語教育 15 き,自分がある程度の結論を出した上で話し合いに臨むという自分の役割を意識することもできる。ただ,協力員と相談し,基本的には担当について最初は自分で考えるが,相談相手がいる方が取り組みやすい生徒もいるだろうということもあり,学習班を二つに分け,それぞれの課題に二人ずつで取り組む形にした。 ◆A校・文学的文章1年 【課題A】〈最初〉感想を書く。疑問に思ったこと,他の三つの教材とは異なり,選択するような場面はなく,単純に初めて読んだ感想を書く課題とした。一行でも二行でも読んで思ったことを書くだけである。ただその中に,できれば疑問や分からなかったことを入れるように伝えたところ,ほとんどの生徒は疑問や分からなかったことを書いていた。戦争中という時代背景について理解が難しい生徒もいることは予想されるが,もともと絵本という教材であるため,中学生が読んで全く分からないという内容ではない。そのため,感想を何も書けないという生徒はいなかった。 他の実践とは異なることがもう一つある。感想を書いた段階で,学習班で感想の交流を取り入れたことである。感想を交流する中で,様々な疑問に触れることができ,「~と言ったのはなぜだろう」「~をしたのはなぜだろう」という後のジグソー学習の視点につなげられると考えたからである。 【課題a-1】自分が担当する視点から,登場人物の 心情について考える。また,同じ担当 者同士で専門家会議を行い,どの表現 から誰のどのような心情が分かるかま とめる。 【課題a-2】学習班に戻って,それぞれの視点から 分からなかったことを含む。 〈最後〉作者が作品を通して伝えたかったことは何か書く。 読み取った心情についてまとめる。 視点を絞ることで,注目して読む場所がどこか分かりやすくなると考えた。また,心情が読み取りやすい部分から先に考えていくよう意識させることで,自分の考えを最低一つは書いた状態で専門家会議に臨むように促した。自分が一つだけしか分からなくても,他に同じ意見の人がいれば自信につながり,自分では気付けなかったところにも注目できると考えた。さらに,学習班で異なる視点からの読みを交流することで,似たような心情,異なる心情が見つかり,読みを広げていけることを意識した。
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