すなわち,「主体的に学習に取り組む態度」と,資質・能力の柱である「学びに向かう力・人間性」の関係については,「学びに向かう力・人間性」には①「主体的に学習に取り組む態度」として観点別評価(学習状況を分 本研究での評価とは,ここで言われている①の到達度をはかるための評価,目標に準拠した評価ではなく,②の個人内評価を生徒に返すことで,生徒自身が学びの自覚をし,今後に向けての改善につなげていけるような評価のことを指している。さらに,個人内評価は二つに分けることができる。『実践教育評価事典』では,個人内評価について次のように説明されている(19)。 今回は「書くという表出方法」を随時取り入れることで,自分がどのように学び,変化したかを自覚し,「学びへ向かう力」につなげていくことを研究の目的としている。そのように考えると,本研究での「学びへ向かう力」につながる評価とは,縦断的個人内評価を生徒に返すことだととらえられる。縦断的個人評価について考えると,その時間の授業が始まる前と後なのか,単元の学習の前と後なのか,あるいは1年間,3年間という長い期間で見るのかなど,期間の幅は様々である。 今回の実践では,教師が行う評価を,特に単元(教材)の学習を通して見取る縦断的個人内評価としてとらえ研究を進めている。そのような評価だと考えると,どのような形で生徒に返すのかということも重要である。教師が生徒の学びに対してどのような返しをするかによって,その後生徒が自ら学ぼうとするかどうかも変わってくるだろう。『新しい教育評価入門』にはフィードバックの調査研究結果として,以下のような例が紹介されている(20)。 析的に捉える)を通じて見取ることができる部分と,②観点別評価や評定にはなじまず,こうした評価では示しきれないことから個人内評価(個人のよい点や可能性,進歩の状況について評価する)を通じて見取る部分があることに留意する必要がある。(下線部は筆者による) (前略)その子ども個人において,子どもを横断的・縦断的に評価しようする評価法を個人内評価という。横断的個人内評価は,子ども個人のもつ多様な側面・特性の中で比較し,優れた点を判断する方法である。一方,縦断的個人内評価は,子ども個人の過去の能力や特性と比較し,現時点でどのように進歩したかを判断する方法である。 (下線部は筆者による) (前略)点数のみとコメントのみ,点数とコメントの両方という3種のフィードバックがその調査研究では比較された。結果は,コメントのみのフィードバックが唯一効果的であった。点数という形で到達度合いが提示されると,子どもたちはその情報強く惹きつけられる。しかし,テストの点数や評定といった数値情報は,学習改善のための手がかりを何ら子どもたちにもたらさない。そ 中学校 国語教育 8 れゆえ, ていける。考えを深めていける対話を通して学んでいくからこそ,自分で振り返るとき,考えの変容が分かり,学んだことを生徒自身が自覚することができると考えている。そして,自分の考えを伝えたり,他者の考えに耳を傾けたりする対話においても,書いて残すという表出方法は大きな役割を担うと考えている。 (4)教師の支援・評価 「学びへ向かう力」を育てるためには,教師に よる評価のもつ意味も大きい。教師が生徒の成長を認めることで,より学びの自覚も得られるので はないかと考えている。支援や評価については様々なとらえ方があるため,本研究での支援と評価がどのようなものなのか述べつつ,「学びへ向かう力」とのつながりを明らかにする。 まず本研究における支援について述べる。支援には,学級など全体に対する支援と一人一人に応じた個別の支援がある。一人一人に応じた支援は言うまでもなく大切なことであり,その時々の状況に応じて適切な支援をすることが求められる。しかし,実際の授業では一人の教師に対して約30人から40人の生徒がおり,授業中に全ての生徒に適切な支援をするのは難しい場面も多々ある。そういったとき,その生徒に合わせたワークシートを準備したり,授業外で個別に対応したりすることもあるが,中学校では教科担任制ということもあり,教科担任と該当生徒の都合のよい時間を簡単にとれるわけでもない。書くという表出方法も,教師が授業中に個々の支援をするのに役立つとは考えているが,書いたものを集めて見取った後で,支援したり評価したりすることの方においてより効果的であり,授業中に全ての生徒の支援として生かすには限界がある。本来は,授業の中で全員が考えられ,力を伸ばしていけることが望ましい。そこで,本研究での支援とは,どの生徒も考え学んでいけることを目指した全体に対するものととらえて研究を進めた。そのような支援の一つとして,実践では,生徒自ら問題解決をしていけるような視点の与え方について考えていく。 次に本研究における評価について述べる。答申において,「学びに向かう力・人間性等」の評価の観点として以下のように述べられている(18)。
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