001総教CR030517R1研究論文(田中)
5/22

この能力は,子供や若者の自信や自己肯定感の低さ 下線部より,「自己理解・自己管理能力」が他の能力を形成する上で基盤となることが示されている。加えて,とりわけ自己理解能力については,キャリア教育を通して常に深めていく必要がある,極めて大切な能力であると捉えられる。 二点目は,先述の通り,若者の初期の離職理由として一番多かった項目が「仕事が自分に合わなかったため」とあったからである。社会的・職業的自立に向けて,職業についての理解を深めることはもちろんであるが,自己の適性を理解し,将来を見通すことも大切であるといえるだろう。 三点目は,自己理解が適切な目標設定につながると考えられるからである。キャリア教育においては自分の将来について考えていくが,遠い将来や夢だけを見ていると,今やるべきことに取り組む姿勢にはつながりづらいように感じられる。 しかし,自己理解を深めていれば,現状を踏まえた目標設定になると考えられる。この目標により今何をすべきかが整理されることで,自分の課題を見つめながら前向きに取り組む姿勢をつくるきっかけとなり得るのではないだろうか。 ③課題対応能力 主体的な進路選択に向けて,さまざまな活動 の中で課題の発見・分析や,適切な計画を立て てその課題を処理し,解決する経験を積んでお くことが大切であると考えられる。課題解決に向けては,膨大な情報の中から適切な情報を収集・選択する能力等も必要になる。したがって,学校行事等の準備として行われる調べ学習等の機会を通して,課題解決に向けた学習過程を経験しておくことが大切であるだろう。 ④キャリアプランニング能力 社会人・職業人として生活していくために,働くことの意義を理解し,今学んでいるさまざまな内容と関連付けながら,一人一人が主体的にキャリアを形成していくことが求められる。 また,先述の通り,初期の離職理由として二番目に多かったのが人間関係に関わる項目であった。この実態を受け,学校教育の中で他者との関わりを通して学びを深めたり,役割を果たしたりといった経験を蓄積しておくことが,社会に出る準備として大切であると考えられる。 ②自己理解・自己管理能力 前向きに考え行動するには,自己に対する理解,特に自分自身のよい点や強み,可能性を含めた肯定的な理解が基盤となる。また,自己の適性や役割を理解することで,将来に対しての見通しをもち,主体的に自らのキャリアを形成していこうとする姿勢につながると考えられる。 しかしながら,自己理解とは肯定的なものだけではない。自分の悪い点や課題について気づくことも大切な自己理解である。そのような場合であっても,他者と対話的に関わりながら,自らの感情を律し,少しでも克服していこうとすることが大切であろう。つまり,自己に対するさまざまな理解を通して主体的な行動につなげていくことができる能力であると捉えられる。 そのためには,学校教育におけるさまざまな活動やそこでの経験が将来につながっていることに気づかせるような実践が大切となる。 なお,これら四つの能力は相互に関連し合っている。各校の実態や目指す生徒像と照らし合わせ,育てたい資質・能力を設定し,まずは教師側が意識しておくことが大切であると考えられる。 (2)本研究で重点化する資質・能力 本研究では,特に「自己理解能力」に注目する。その理由を,以下に示す三点に分けて述べる。 一点目は,自己理解能力が,他の能力における基盤であるとされているからである。「在り方答申」では,「自己理解・自己管理能力」の内容として,次のように説明されている(13)。 以上の理由より,本研究では特に自己理解能力に注目していきたいと考える。ただ,四つの能力はどれも大切であり,相互に関わり合っているものでもある。したがって,あと三つの能力についても意識に入れた上で,あくまで重点化する能力として自己理解能力を取り上げたいと考えている。 が指摘される中,「やればできる」と考えて行動できる力である。また,変化の激しい社会にあって多様な他者との協力や協働が求められている中では,自らの思考や感情を律する力や自らを研さんする力がますます重要である。これらは,キャリア形成や人間関係形成における基盤となるものであり,とりわけ自己理解能力は,生涯にわたり多様なキャリアを形成する過程で常に深めていく必要がある。 中学校 キャリア教育 3 123 (下線は筆者)

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る