001総教CR030517R1研究論文(田中)
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①人間関係形成・社会形成能力 図1-1 キャリア教育と進路指導との関係(10) 122 生徒が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう,特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて,キャリア教育の充実を図ること。その中で,生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう,学校の教育活動全体を通じ,組織的かつ計画的な進路指導を行うこと。 まず,生徒が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通すことが大切であると捉えられる。学校生活の中で,現在学んでいることが将来につながっているという意識が持てれば,さまざまな活動に取り組む意欲の向上につながるであろう。 また,「特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて,キャリア教育の充実を図ること」が示された。キャリア教育の充実を図るには,学校教育におけるさまざまな場面での学びを,特別活動の時間に振り返り,将来への見通しや今後の学びへつなげていく活動が必要であると考えられる。 (2)中学校におけるキャリア教育 中学校におけるキャリア教育については,新学習指導要領総則の「生徒の発達を支える指導の充実」の中に,以下の内容が挙げられている(9)。 そして,特に中学校段階では,生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができる姿が望まれていると理解できる。ほとんどの中学生が高校受験に向け,自らの進路と向き合う中で,いかに主体的に進路を設計していくことができるかが重要であり,この点に寄与することがキャリア教育のもつ大きな役割であるといえるだろう。 なお,「進路指導」という言葉は以前から使われているが,キャリア教育と進路指導は,同じ理念を掲げる教育活動である。藤田(2018)は,両者の関係を,以下の図1-1のように示している。 図1-1から分かるように,キャリア教育と進路中学校 キャリア教育 2 指導との関係は,その対象となる範囲に違いがあるといえる。進路指導は中学校および高等学校に限定されるが,キャリア教育は中学校以前の段階から対象とされていることに加え,若年無業者を支援するさまざまな機関においても実践される。 以上のことから,中学校におけるキャリア教育とは,生徒の主体的な進路選択に向けて,進路指導を充実させていくことでもあるといえるだろう。中学生のほとんどが,自ら選択しての進路決定は初めての経験であることを踏まえれば,中学1・2年生の時から,進学先や職業の紹介のみにとどまらず,社会的・職業的自立に向けた取組を積み重ねておくことが重要であると考えられる。こうした全体を通しての取組こそが進路指導の意味するところであり,生涯を通したキャリア発達をねらいとするキャリア教育でもあると考える。 第2節 キャリア教育を通して育む資質・能力 (1)「基礎的・汎用的能力」としての四つの能力 先述の通り,キャリア教育は,一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる資質・能力を育てることを目標としている。「在り方答申」では,こうした資質・能力を「基礎的・汎用的能力」として,以下の四つの能力に整理している(11)。 ①人間関係形成・社会形成能力 ②自己理解・自己管理能力 ③課題対応能力 ④キャリアプランニング能力 これらの「基礎的・汎用的能力」は,分野や職業にかかわらず,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力として提唱され,「仕事に就くこと」に焦点を当て整理されたものである(12)。以下,整理されたことをもとに,それぞれの能力についてまとめた内容を順に示すこととする。 社会の中で生活する,あるいは仕事をするととき,他者と協働して取り組むことが必要である。他者と協働する中で,自分の考えが深まったり,自分の知らなかった一面に気づいたりすることができると考えられる。こうした経験を通して,多様な他者を認めつつ,既存の社会に主体的に参画していく態度が培われるであろう。

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