学年初めと同様,学年末も自己理解に関わる項目として,生徒によりさまざまな角度から成長を感じていることが分かった。ほとんどの生徒が,学年初めのときよりも積極的に,自力で書き進めることができていた。中には書き進められない生徒もいたが,その後のスピーチで他者からのコメントをもらい,「他者から新たに学んだこと」の欄に書いている姿があった。なかなか記述できないような生徒も,他者と交流することで自己を見つめる機会となることが見て取れた。 この対話から,担任はキャリア・カウンセリングシートに書かれたポイントの四点(①反復し,褒める,②記述内容は生徒から出させる,③肯定的な言葉がけをする,④具体的な目標を設定する)を意識して言葉がけを行っていることが分かる。 136 今回の授業においても,ペアあるいはグループでの活動および一分間スピーチを行った。学年初めではなかなか自己理解の項目を書き進めることができなかった生徒も,学年末の「新たに成長・発見したこと」の項目に記述する姿が見られた。 そして,記述する際の基礎資料として,キャリア・パスポート(学年初め)に加え,蓄積していた振り返りシートを用い,学年末の振り返りに反映させている姿も見られた。研究版CPにおける「中学2年生になって新たに成長・発見したこと」の項目に,A校では,次のような記述が見られた。 ・考えが少し変わったと思う。“当たり前”は当たり前と言われるかも知れないけど,決して当たり前じゃないから,色んなことに感謝しないと,と思った。 ・後輩ができて責任感が強くなった。 ・授業中あまり集中できていなかったことを踏まえて,しっかり集中することができた。 交流の土台として,以前の取組における振り返りを蓄積しておくことで,学年末の振り返りが生徒にとって「何となく」のものではなく,より具体的な内容になると考えられる。その内容は次年度へとつながり,自分の成長を実感しながら,さらなる目標を立てることができるため,今後に向けて前向きに取り組んでいく意欲を高めることにつながるであろう。これは,本研究における「自己理解能力」のうち「学びに向かう力・人間性等」(前向きに考える力,主体的に行動し,進んで学ぼうとする力)にあたり,キャリア・パスポートによって生徒が自己評価できると考えられる。 そして,キャリア・パスポートを毎年積み重ねることにより,継続的に自分を振り返ることができる。少しずつでも将来に向けての意識を高め,将来のためにも今を大切にして取り組む意欲を高 図3-6 振り返りにおける教師からの言葉がけの場面 担任(T)は,今までの振り返りシートへの記述内容および普段の関わりから,生徒(S)に言葉がけを行うことを授業前から計画していた。実際の授業における対話の内容は以下の通りである。 中学校 キャリア教育 16 めることが大切であるといえる。 また,振り返りを行う際に,生徒の自己理解がより深まるよう,教師はキャリア・カウンセリングシートを活用した言葉がけを行った。図3-6は,担任からの言葉がけの場面である。 T:この「めんどくさい」時ってどんな時かな? もっと具体的に書けたら良いね。どんな時にめんどくさく無くなる? S:えー。(自信なさげに「ポジティブに考える」 と記述する) T:何でもポジティブに考えていくってことや な。良いと思う。「勉強めんどくさい」って ならずに,勉強したら自分のためにもなるっ て思うしね。 S:(大きく頷く。自分なりに整理できた様子) T:それをもとにして書き進めてみたら? S:(キャリア・パスポートをじっと見つめる。少し経ってから)あっそうか部活もか…。 担任との対話を通して,この生徒はまず研究版CPの,「将来の自分(30歳の私)を想像しよう」の各項目に,以下のような記述を書き進めた。 ○30歳のとき,どんな自分になっていたいか。 ・めんどくさがらない。
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