001総教CR030517R1研究論文(田中)
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展開を工夫した点として,自己理解に関わる内容を展開1で設定した。そして,「私の自己PR」については一分間スピーチで伝える活動を設けた。 一分間スピーチを設定することで,発表に合わせて無理に自己PRの内容をひねり出す生徒がいるのではないかとの懸念があった。しかし,中学校第2学年という発達段階を踏まえ,発表準備として自分を見つめる機会をつくること,他者に向けて言語化することで自己理解を深めることをねらいとして設定した。また,他者からのコメントを生徒の活動 導入 ○今までの学校生活を振り返り,印象に残っている出(5分) 来事や場面をクラス全体で出し合う。 (全体:3分) ○過去の学びを記録して残し,それをもとに振り返ることを通して現在の自分を見つめ,将来に向けて目標を立てることが大切であると理解する。 展開1 ○キャリア・パスポートの「私の自己PR」を記入する。 (20分) →グループ内で「私の自己PR」について1分間スピーチできるよう準備する。 (個人:5分) ○記入後,グループで順番に1分間スピーチを行う。 各スピーチ後に,聞き手はスピーチに対するコメン トを行い,発表者に対する気づき等を発表する。 (スピーチ1分→コメント30秒 ×6回分) ○スピーチ内容を考え,他者からコメントをもらうことで自己理解を深め,自分のよい点に気付くとともに今後の目標設定にも生かすことができる。 ○他者のコメントから,新たに気づいた内容があれば 「私の自己PR」の欄に書き加えてよい。 展開2 ○「将来の夢」,「そのためにつけたい力」および「理想(15分) の中学生のイメージ」について,それぞれキャリア・パスポートに記入する。 (個人:5分) 〇自分の将来の夢(なりたい大人)に近づくにはどのような力が必要になるか,全体で意見を共有する。 終末 ○「これからの自分・なりたい自分」について,「学習(10分) 面」「生活面」「家庭・地域」「その他」における目標 およびチャレンジしたいことを意思決定する。 指導の留意事項 ●今までを振り返りながら,発言しやすい雰囲気をつくる。 ●キャリア・パスポートを記述する意味について明確に伝え,生徒に配布する。 ●授業全体が,記入のみの時間とならないよう留意する。 ●スピーチを行う前に,自分と向き合う時間を大切にする。 ●書き進められない生徒については,授業者が普段の関わりを生かした肯定的な声かけでサポートする。ただし,無理に書かせることは避ける。 (その際,キャリア・カウンセリングシートを活用する) ●人数が違い時間が余るグループ等は,まだ書けていない項目の記入の時間に充てる。 ●生徒が記入している間に,「つけたい力」について発表してもらう生徒を決めておく。 ●話し合った“つけたい力”が,終末における各自の目標設定(全体:5分) に生かされるようにする。 ●今までの内容を生かし,各個人がキャリア・パスポートに記入できるよう助言する。 130 表3-1 キャリア・パスポート(学年初め)の展開 本章では,実践の具体について述べる。研究協力校として,A中学校,B中学校の二校にご協力いただき,両校とも第2学年を対象として実施した。 なお,先述した本研究における「自己理解能力」(表1-1)は,実践を形づくる視点として活用したため,その関連についても述べていきたい。 第1節 キャリア・パスポート(学年初め) まず,キャリア・パスポート(学年初め)の授業を,特別活動の時間に行った。本稿ではB校の実践を取り上げる。授業は表3-1のような展開とした。 もらう時間も設定することで,お互いが成長を実感したり,少しでも客観的な自己理解を促したりすることができる機会となるようにした。 なお,一分間スピーチの発表形式はペアもしくはグループのどちらかを担任が選び,必ず他者との交流ができるように設定した。図3-1は,そのうちペアワークの様子である。 このような活動を通して,B校では「私の自己PR」の欄に全員が記述することができていた。これだけで全員の自己理解が深まったとまでは断言できないが,全員が自分事として捉え,他者との関わりを通して自分を見つめる時間をもつことにはつながったのではないかと考えている。 生徒の「私の自己PR」における記述の一例として,ある生徒がまとめた内容を以下に示す。 ・明るい ・たまご焼きを作るのが得意 ・好きなグループの歌詞をおぼえることが得意 ・テニスを頑張っている ・図書委員長になれるよう頑張っている 研究版CPでは,「私の自己PR」に記述する項目として,①自分のよい点,②好き・得意なこと・もの,③頑張っていること,を挙げている。この三点それぞれについて,自分を見つめながら記述している生徒が多く見られた。学校生活に関係するか否かを問わず,さまざまな切り口から自己PRを考えていることが,上記の例から分かるだろう。 また,他者からのコメントにより,自己PRをさらに記述する姿もあった。多くの生徒が自己理解を深めた上で,今後の目標を意思決定していた。 第3章 実践の具体 図3-1 1分間スピーチの様子(ペアワーク) 中学校 キャリア教育 10

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