→自分のよい点,課題を蓄積し,自己理解を深める キャリア教育において,生徒のキャリア発達を促す(支援する)営みはキャリア・カウンセリングとよばれる。「すべての生徒に必ず効果がある」という万能な言葉がけは存在しないが,「対話的」「共感的」「肯定的」な言葉がけのイメージが少しでも膨らむよう,一例として作成した。 図2-5は,振り返りシートを記述する際の,教師からの言葉がけの例について記載したものである。振り返りでは,積極的に書き進められる生徒もいれば,なかなか書き進められない生徒もいることが予想される。そうした個人差に対応できるよう,生徒からの返答によって内容を分岐させる形で例示を試みた。 また,重要な部分は線を引く,太字にする等して強調し,ポイントが分かりやすいようにした。具体的には,①反復し,褒める,②記述内容は生徒から出させる,③肯定的な言葉がけをする,④具体的な目標を設定する,という四点を挙げた。 このキャリア・カウンセリングシートおよび前項で取り上げた振り返りシートを活用することで,生徒の自己理解を深め,今後に向けて前向きに学ぼうとする意欲を高めることができると考えた。 (3)本研究の構想 今までの内容を踏まえ,本研究の構想を図2-6のように表した。 先述の通り,キャリア・パスポートを用いた実践は学年初めおよび学年末の,特別活動における学級活動の時間に実施する。大切なのは,その間を「つなぐ」ことであり,学校でのさまざまな「活動」において「目標」と「振り返り」を大切にしていくことが必要であるだろう。こうしたサイクルを積み重ねておかなければ,二回のキャリア・中学校 キャリア教育 9 パスポートの実践が,ただ書くだけ,または思い出すことが精一杯といった時間になりかねない。 本研究では,特に「振り返り」をより充実したものとするために,まず振り返りシートを用い,学校行事ごとに「目標」「振り返り」そして「自己理解」に関わる内容を蓄積することを意図した。 振り返りシートの内容は,学年末でのキャリア・パスポートに記述する際の基礎資料とすることができる。生徒が学んだ内容がキャリア・パスポートに反映されるよう,普段から目標と振り返りの習慣をつけること,そして振り返りを各自で保管・蓄積しておくことが大切であると考える。 学校によっては,既に活動の記録を蓄積している例もあるだろう。こうした既存のポートフォリオもキャリア・パスポートの基礎資料とすることができる。しかし,大量のワークシートが入ったポートフォリオから,生徒がキャリア・パスポートに残したい内容を選び抜くには時間がかかる。 そこで,本研究では振り返りシートとして,「目標」「振り返り」そして「自己理解」に関わる内容を集約することで,生徒が学びのつながりや自己理解の深まりを実感し,次の取組に向けて学ぶ意欲を向上させていくことにつなげたいと考えた。 また,振り返りを行う際の教師側に対する支援として,キャリア・カウンセリングシートを用いることとした。教師との対話的な関わりにより,生徒が自己理解をさらに深め,自らの成長を実感するきっかけが生まれることを期待した。 これら二つの手だてにより,「振り返り」の内容がより充実し,生徒の自己理解を深められると考えた。こうした自己理解を踏まえ,今後に向けた「目標」を設定することで,目標達成のために,次の取組で積極的に「活動」しようとする意欲をより高めることができるのではないだろうか。 全体をまとめれば,今までに行われてきた取組を大切にしつつ,自己理解を重要な視点として「目標」,「活動」,「振り返り」のサイクルを回すことにより,学年初めから学年末の間をつなぎつつ,学ぶ意欲の向上をめざすという構想である。 以上に述べた視点を反映させながら,次章では具体的な実践の内容について述べていきたい。 (18) 藤田晃之 「キャリア教育フォービギナーズ」実業之日本社 (19) 福島脩美 「自己理解ワークブック」金子書房 2005.10.1 p.6 (20) 前掲(10) p.53 (21) 前掲(10) pp.148-151 129 図2-6 研究構想図 目指す生徒像「将来を前向きに考え,学ぶ意欲をもって取り組む生徒」学年末キャリア・パスポート自己理解を踏まえ設定する学年初めキャリア・パスポート目標振り返りシート学ぶ意欲の向上特別活動自己理解の深まり特別活動活動キャリア・カウンセリングシート振り返り目標達成のために→自己理解を深める機会を引き出す取り組む
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