001総教CR030517R1研究論文(西村)
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を述べた。では,クリティカル・シンキングを働かせるためには,どのような手立てを講じればよいのだろうか。小学生は発達段階から自分の考えを自身で批判的に見直すのは難しいだろう。そのため,他者の存在が必要だと考える。他者とのやり取りをすることで,自分の考えを批判的に見直し,より妥当な考えにしていくことができる。このような学びは,他者との対話的な学びによって実現できると考える。 一方で,対話的な学びの実現のためにグループによる話合いの場をただ設定しただけでは,クリティカル・シンキングは働かない。川合,西川(17)は,学級での話合い場面における子どもたち全員の様子を数か月にわたり記録し,分析している。その結果の多くは整理すると以下の三つの話合い方であったとしている。 そこで,役割を明確にした話合いと,どのように話合いを進めるかを明示することで,クリティカル・シンキングを促す対話的な学びの実現を目指す。役割を明確にすることで責任感もうまれ,また焦点を絞って意見が言いやすくなると考えられる。さらに,話合いの進め方を明示することで見通しを持って話合いを進めることができると考える。このような,クリティカル・シンキングを促す話合いの進め方を明示したカード(以下.対話カード)を右図2-4に示す。 右図2-4の対話カードは,「司会者」「発表者」「チェック者」と役割を決めて対話できるように している。「司会者」は主にグループの話合いの進行とまとめ・全体への報告役である。「発表者」 は自分の考えを発表する役である。「チェック者」は発表者の発表に対し,「どの事実や証拠から考えたか。」や「出した考えに言い過ぎや足りないことはないか。」などを質問する役割である。チェック者の質問によりグループ内でクリティカル・シンキングを促すことをねらいとしている。このようにして,グループで話合ったことを全体で交流し,学級での結論を導く。 ・学習の得意な子が一方的に考えをまとめる話合い方。 ・会話があまりなく何となく結論を出す話合い方。 ・違う意見をもっていても,先に意見を言った子どもの考えに同意して結論を出す話合い方。 (これらの話合い方が複合的に現れる場合もある) この調査から,場の設定だけでは充実した話合いにならないことが分かる。ここから考えると,相手の考えに意見するクリティカル・シンキングはさらに難しいと分かる。 図2-4 対話カード また,これらの話合いの役割は時間ごとに交代し,全ての役割を体験する。役割を明確にすることで焦点を絞って話合いに参加でき,話合いを活 性化することができるだろう。他にも,チェック者を経験した者が発表者になった際,どのような質問をされるか見通しが立てやすくなり,話合う前から個人で考えている段階にクリティカル・シンキングが働くことが期待できる。 小学校 学習指導法 7 さらに,グループでの対話的な学びを繰り返し行うことで,最終的には対話カードが無くても話合うことや対話カードに示された以外の話し方をする姿や,学級全体で交流する時にも活用する姿が見られることが期待できる。 (3)指導の効果を見取る論証確認テスト 目指す科学的な問題解決力の育成のために様々な方策を考え講じるとともに,これらの方策により科学的な問題解決力の育成に迫っているかを見取ることも大切である。定期的に指導の効果を測定することで,指導法の見直しや,子どもへのフィードバックなどができる。実態に応じて指導できることは,科学的な問題解決力の習得,発揮・活用のステップの過程を確実に進めていける。 指導の効果を見取る方法として様々な手法があ35

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