第1章 「生きる力」の育成を目指して 第1節 探究的な学習の必要性 小学校では令和2年度から新学習指導要領が全面実施となる。この新学習指導要領でも平成10年からの学校教育の理念である「生きる力」の育成を目指している。「生きる力」とは,平成8年の中央審議会答申(以下.答申)によれば,次のように示されている(3)。 このような「生きる力」の育成を目指し,総合的な学習の時間の創設や言語活動の充実など様々な取組や実践が行われてきた。そして,これまでの学校教育の強みを生かし,「生きる力」のさらなる育成を目指す上で,平成28年答申では,これからの社会の文脈の中で「生きる力」を再構築し,学校教育を通じて育てたい子どもの姿を示している。しかしながら,これからの社会をたくましく生きる子どもの姿に迫る上で次のような課題も指摘されている(4)。 ・学ぶことと自分の人生や社会とのつながりを実感しな ・一つ一つの学びが何のためか,どのような力を育むた ・これからの時代に求められる資質・能力において,情 下線部①に示された内容は,まさに「生きる力」の定義と同じ内容であり,このような力は予測困難な社会と言われるこれからの時代を生きる子どもたちに,特に,必要な力である。そのため,こ (1)文部科学省「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等につい 平成27年9月に国連サミットで持続可能な開発目標(以下.SDGs)が採択され,令和12年に向けて日本をはじめ様々な国や地域でその目標達成に向けて取り組んでいる。採択された目標には「貧困をなくそう」や「飢餓をゼロに」,「住み続けられるまちづくりを」など17の目標が示され,「だれ一人取り残さない」を基盤としている。この17の目標の中には「質の高い教育をみんなに」という目標があり,その達成に向けては,学校教育に携わる教員が大きく関わってくる。加えて,小学校は令和2年から,中学校は令和3年から戦後最大の教育改革と言われる新学習指導要領の全面実施が迫っている。その新学習指導要領改訂の全体において,持続可能な開発のための教育(以下.ESD)が基盤となる理念であると示されている(1)。このことは,まさに学校教育からSDGsに迫る上で,ESDが重要な位置付けになったと捉えることができる。 ESDで求められる資質・能力は「多様性」「相互性」「有限性」等の概念の理解,「批判的に考える力」「多面的・総合的に考える力」等と示されている(2)。そのため,このESDを展開していくにあたり,単一の教科での学びだけでなく,各教科等の学びを関連付けることが必要である。例えば,ESDの柱の1つである防災教育の洪水問題について,理科の学習から堤防建設や川岸を補強するといった洪水を防ぐための方策を考える視点がある。しかし,自然は想像以上の力を発揮することもある。そこでは,洪水になったときの仮設住宅や支援の方法という社会システムの構築といった社会科の学習からのアプローチもある。このように,ESDや新学習指導要領の理念を実現していく上で,複数の教科における学びを生かし,多面的に考えることが大切になってくる。そのため,各教科等において「何ができるようになるか」を明確にした学習と,各教科等において身に付けた知識・技能及び思考力・判断力・表現力等を相互に関連付けた学習が必要になってくる。 そこで,本研究では各教科等の学びが相互に関連し合うことで,各教科等の学びをより高める学習の在り方について実践・検証していく。 「いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力」,「自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性」,そして「たくましく生きるための健康や体力」 がら,①自らの能力を引き出し,学習したことを活用して,生活や社会の中で出会う課題の解決に主体的に生かすこと。 めのものか各教科等を学ぶ本質的な意義が明確でないこと。 報活用能力や問題発見・解決能力,様々な現代的諸課題に対応して求められる資質・能力など,②特定の教科等だけでなく,全ての教科等のつながりの中で相互の連携を図り育むこと 小学校 学習指導法 1 て(答申)」 2016.12 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm 2020.3.1 (2) 前掲(1) 一部抜粋 (下線は筆者による) 29 はじめに
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