42 提案課題では,設定した課題に対し,交流したことのある高齢者施設の高齢者の方々を,笑顔にするためにできる方法を考えた。例えば,「一緒におはじきをして遊ぶ」や「折り紙を教える」,「学校紹介クイズをする」などの意見が出た。その後,子どもたちは,ルールや説明の仕方,遊び道具などを準備し,実際に高齢者施設に行き,考えた仮説を検証・実践した。 熟成課題では,仮説が課題に対してどうであったか考察するようにした。その際,実践した際の高齢者の様子などの気付きを事実や証拠とし,仮説がどうであったかを理由とともに主張することをねらいとした。 論理的に考え,表現する前に,実践して分かった高齢者の様子や聞いたことなどを共有した。次に,この共有した事実や証拠に基づいて考えていくように促した。理科の学習で論証スキルについて習得してきたことから,論証フレームは示さずに子ども自ら発揮・活用できるように展開した。実際に,子どもが記述した内容例を以下に示す。 「事実・しょうこ」 高齢者は歩いたり立ったりすることに困りがある人がいる。 「理由」 私たち子どもは体がじょうぶ。 「主張」 電車やバスなどで高齢者に会ったら席をゆずる。「事実・しょうこ」には,高齢者施設で出会った高齢者を見て分かったことを記述している。そこから,「電車やバスで高齢者に出会ったときに席をゆずる。」と「主張」している。「理由」として,私たち「子どもは体が丈夫」と記述している。この子どもの思いとして,丈夫だから席をゆずって立っていても平気だからということであった。 一人一人が考えを記述した後,全体で交流すると,多くの子どもが事実・証拠や理由を示しながら主張することができた。まとめの場面では,学級全体として,相手の思いを考え行動したり,声をかけたりする等とまとめた。 以上から,理科で論証フレームを繰り返し指導していったことで,主張していく際にどのように考えればよいかを理解し,総合的な学習の時間でも発揮・活用できたのではないかと考える。 一方で,理科の学習では論理的に考え,表現していた子どもでも,総合的な学習の時間にそれができない子どももいた。この要因として,論証フレームを示さなかったことにより,総合的な学習 の時間で子どもが論証フレームが使えることを自覚できなかったことが考えられる。理科では論証フレームが使えることを自覚させ,考察の場面などで意識的に使ってはいるものの,総合的な学習の時間でも使えるということは明示していない。そのため,子どもたちは考えを主張する場面において論証フレームを使うことができなかったのではないかと考える。つまり,A校第4学年において,理科から総合的な学習の時間へと習得したフレームを発揮・活用する場面を意図的に設定し,探究的な学習としてつないではいったが,子どもたちにとっては,つなぐためのステップが飛躍していたと考えられる。 そこで,つないでいくためには,まず,総合的な学習の時間でも論証フレームが使えることを自覚させる学習段階が必要であろう。そのためには,熟成課題で考えを構築する場面において,理科と同じように論証フレームを示して視覚化させたり,発問や指示,学び方をそろえたりして学習を展開する必要があると考えた。 (2)B校 第5学年「環境とくらし」の実践から 本単元では,環境問題について調べ,その解決のために自分たちにできることを考え,発信していく学習である。学習の概略を表3-2に示す。 発見課題 追究課題 提案課題 熟成課題 表現課題 ・練り合った考えを発信する。 環境問題は,地球規模で考えていく問題であるため,他人事になりやすい。そこで,世界で起きている環境問題の現状や解決のための取組を知ることと,自分たちの地域ではどのような問題や影響が出ているのかを調べることで,自分事の問題として意識させる。そうすることで,解決のために自分たちにできることはないかを考えていけるようにした。 このような流れの中,提案課題で子どもたちが表3-2 「環境とくらし」の概略 探究の過程 小学校 学習指導法 14 学習内容 ・世界中で起きている環境問題について知る。 ・B校の環境は守られているか調べる。 ・B校の環境をよくするための取組を一人一人が考える。 ・自分たちで取組を実践する。 ・実践をもとに提案について振り返り,練り合う。
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