第3章 指導の実際 38 (16)山本 智一「小学校理科教育におけるアーギュメント構成能力の育成」 風間書房 2015 (17)西川 純「理科だからできる本当の『言語活動』」 ㈱東洋館出版社 2014.3.24 pp.10-12 も一つの方法であるが,実際に試すことができるのであれば,やってみて仮説が妥当かどうかを振り返るといったプロセスを経ることが大切であろう。このように,仮説について実践し,そこで得られた結果に基づいて妥当な解を導くことは,まさに科学的な問題解決ではないだろうか。総合的な学習の時間における課題は,地域や実社会をテーマとして探究していくため,実践することに難しさはあるだろう。しかし,実現可能な実践方法を考えることで,より身近なテーマとして感じ,そこで得た学びを今後に生かすことができるようになると考える。 以上のように,提案する考えを実際に試してみて,そこで得た事実・証拠に基づいてより納得する考えを導く学習のプロセスを総合的な学習の時間の中に意図的に仕組むことで,本研究で目指す科学的な問題解決力のさらなる育成を目指したい。 本研究では,京都市立小学校2校(以下「A校」「B校」)で授業実践を行った。対象学年はA校第4学年,B校第学5年である。本市は大日本図書(理科),光村図書(国語科)の教科書を使用している。 第1節 科学的な問題解決力を習得する理科学習 (1)論理的に考え,表現する力の育成 ア 論証フレームの導入につなぐ 理科の学習の中で,2章第1節で示した論証フレームを活用しながら論理的に考え,表現する力の習得を目指していく。しかし,論証フレームを導入する際,ただワークシートを配布しただけでは,単なる作業となり思考が働かないという可能性がある。 そこで,主張する際に必要な三つの要素の関係について学ぶ機会が必要である。新学習指導要領解説国語編では,思考力,判断力,表現力等に関わる「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の領域で,第3学年及び第4学年から考えと小学校 学習指導法 10 それを支える理由と事例との関係を明確にしながら話したり読んだりする等の学習をすることが示されている(18)。第4学年「自分の考えを伝えるには」や第5学年「事実と考えを区別して活動を報告する文章を書こう」等が該当する。これらの単元で,考えを言う(主張する)際に,必要な「事実・しょうこ」「理由」「主張」の要素に気づかせるだけでなく,よりよい主張には三つの要素が欠かせないことを学ぶようにした。 例えば,第5学年の国語科の「明日をつくるわたしたち」の学習では,二つの提案書を比較させ,よりわかりやすく説得力のある提案書について学習した。この学習の結果,子どもたちは主張する際に事実・証拠と理由の必要性に気づき,よりよい主張について理解することができた。 イ 論証フレームの習得を目指して ~A校 第4学年「とじこめた水や空気」(全7時間)と「わたしたちの体のつくりと運動」(全9時間)における実践から~ <導入期> 論証フレームの習得に向け,「とじこめた空気や水」の単元でそれを導入した。本単元は「A物質・エネルギー」に位置付けられ「粒子の存在」に関わる内容である。空気の存在を体感しながら,閉じこめられた空気を圧すと,体積が小さくなることや,圧し返す力が大きくなることを理解していく。また,閉じこめられた空気は圧し縮められるが,水は圧し縮められないことを学習する。 自分の考えを主張するために必要な三つの要素や論証フレームを知ってはいるが,理科の場面で具体的にどのように使えばよいか分からないと考えられるので,全体での交流の中でフラッシュカードなどを用い,事実や証拠に当たる部分を明確にしながら,理由を加えて表現できるようにした。 本単元の4/7Hに,「閉じこめた水に力を加えると,体積はどうなるだろうか」という問いを設定し,論証フレームを活用して考察する場面を設定した。 授業では,考察する場面において,まず,国語科で学んだ主張に必要な三つの要素について想起させた。次に,考察していく上で「事実・しょうこ」は何に該当するかを問うた。すると,子どもたちは「実験結果」と回答したので,自分たちで描いた結果の図を言語化するように促すと「力を加えても,棒の位置は変わらなかった。」や「閉じこめた水に力を加えても棒は下がらなかった」
元のページ ../index.html#12