001総教CR030517R1研究論文(中澤)
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第1節 本研究で目指す資質・能力 (1)1・2年次の研究より 幼稚園で園児が創作活動をしている様子を参観させてもらう機会があった。そこで,園児同士のトラブルに遭遇した。A児の使っていたバケツをB児が勝手に使っているという場面であった。バケツの中には,石鹸を泡立てたものが入っていた。先生がA児からそれを聞いて,B児にバケツをA児に返して,別のバケツを使うよう提案したが,B児は泣き出してしまった。先生が,両方から話をじっくり聞くと,バケツはA児のものだが,その中の泡立てた石鹸はB児のものであり,B児はそのバケツがA児のものだとは知らなかったことが分かった。バケツから泡立てた石鹸を取り出し,他のバケツに入れてB児が使うということで二人は納得し,また笑顔で創作活動を始めた。 表層だけで判断すると,A児のバケツをB児が勝手に使ってしまったということである。そのままの判断でA児にバケツを返すよう言ってしまえば,B児はずっと納得できなかったままだろう。しかし,じっくり話を聞いたことにより,それぞれが欲しいものは,A児にとってはバケツ,B児にとっては自分の創作物ということが分かり,合意点が見つかった。これは,その時の先生が,一人ずつの思いを表出する機会を作ったために,可能になった場面である。 小さい時から,人との関わりの中で葛藤する場面はたくさんある。このような葛藤の場面こそが,人との関わり方を学ぶためのよいチャンスであると考える。こんな時は,表層だけで判断するのではなく,そう思った理由をそれぞれが伝え合い,お互いにとって納得のいく方法をじっくり話し合う経験が大切だと考える。このような機会がたくさんあれば,人とうまく関わる術を見つけることができるだろう。児童同士が関わる機会が大いにある学校で,意識的に,お互いが納得できるような機会を取り入れ学んでいくことが,児童の人間関係形成につながると考える。 1・2年次の実践では,児童の主体性や社会性を育むために,主に学級活動の時間を活用し,児童同小学校 特別活動 1 士で話合い,話し合ったことを係活動や集会活動で実践する活動を行った。1年次では,特に集団自治を意識し,学級会や係活動での話合い活動が,児童の自治的なものになるよう工夫し活動を行った。2年次の研究では,児童の「わくわく」する気持ちを引き出すような課題を提示し,活動のやる気を引き出して集団活動に取り組んだ。そして,児童のやる気を持続するように,生徒指導の3機能を生かして実践を行った。どちらの実践においても児童による話合い活動を充実させていくことが,その後の活動のやる気につながった。つまり,話合い活動が,児童による自治的なものになるようにすることで,自分たちで決めた責任と,自分たちで決めることができた喜びから,決めたことを主体的に実践する姿が見られた。児童が主体的に集団活動に取り組むと,児童同士の関わりの機会が増えていき,その関わりの中で,時にはぶつかり合いながら納得のいくまで話し合う経験をすることで,相互理解が深まり,児童同士のつながりが強くなっていった。実際に,集会活動や係活動に向けての準備では,休み時間等を使って,お互いに声をかけあい進んで活動する姿が見られた。また,実践後今まではあまり関わらなかった児童同士が,休み時間に一緒に遊ぶ姿が見られるなど,人間関係にも良好な変化が見られた。 これらの実践の結果から,学級活動の時間を中心とした集団活動は,児童相互の関わりの機会を増やし,つながりを強くしていくために重要な時間であると考える。中でも,話合い活動は重要であり,自治的なものにすることや児童が納得のいくまで話し合うということが必要だと分かった。 学級活動は,年間35時間(第1学年34時間)のみであり,話合い活動や決めたことの実践等の集団活動に費やせる時間は,限られている。その上,児童による自治的な活動にするためには,児童が話し合う時間や活動の仕方を学ぶ時間が必要となり,最初に多くの時間を費やした。しかし,これらは,例えば国語科の「話す・聞く」の時間や,総合的な学習の時間の集団活動とうまく関連付けることで,ある程度の課題を解決できると考える。 また,昨年度本市採用5年目教員を対象に行った学級会に関する調査では,「学級会の時間をましたか」という設問に対して,「年間計画に基づいて定期的に取った」と答えた教員は全体の13%であった。その理由としては,「教科学習や行事等でとる時間がなかったから」「とりたいと思っていたが指導の仕方が分からなかったから」等であった。5 はじめに 第1章 集団活動で育む人間関係形成能力

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