それぞれの意見のだめなところに目を向け るのではなく,相手の意見のよいところに注目 して聞いてみたらどうかな。その上で,「自分 の意見を選んだらこんなよいことあるよ」とい うことを伝えあって,それぞれが納得し合えた ら,決まるのではないかな。 このまま,互いに納得しなければ,その後の 活動がうまくいかないと思わない?納得のい くまで話し合ってみよう。 これを聞いた後,個々が相手の思いに寄り添いながら意見を聞き合うことができるようになり,メンバー一人一人の表情が明るくなった。その結果,合意形成をすることができた。このグループはそれから,相手の思いに寄り添い,聞くことができるようになり,譲り合ったり,新たなアイディアを出したりしながら話し合うことができるようになっていた。その後,D・E・F児の振返りは,以下のように変容していた。 20 このように,自分も納得して「譲る」という方法を共有した。これは,相手にとにかくあわせるということではなく,相手の思いに寄り添いながら話を聞く中で,100%納得というわけではないけれども「まあそれでもいいか」と考え譲っていくということである。 共有後に行った個々の振返りでは,D・E・F児は,以下のように書いていた。 D児:譲り合わないとだめだけど,僕はあまり譲るのは好きではないと思った。 E児:今までの方法は使えなくて,どうしていいか分からなかったけど,他のグループの意見を聞いて人に譲ることも大切だと思った。 F児:自分の意見になってよかったけど,みんなあまり納得していなくて,なんとなくあわせた感じがあったので,微妙な感じになった。 これらの意見から,全体での共有後でもなお,個々の児童の葛藤が読み取れた。 この振返りを受けて,担任教員が個々に思いを聞き,次の話合い活動の前にこのグループのみもう一度話合いの続きを行った。話合いの最初は,前回同様平行線で,児童の表情も冴えなかった。しかし,以下のような担任のアドバイスの後,話合いが進んだ。 小学校 特別活動 16 D児:自分も納得したし,みんながまとまって話合いができていた。 E児:とても納得して自分の意見を伝えられた。譲り合う気持ちを持てば,話合いがスムーズにいった。だからこれからも話合いがスムーズにできたらいいと思った。 F児:どんどん会話が進むようになって,最初のころより話合いがスムーズにいった。 このように,自分たちの成長への気付きや,みんながお互いのことをしっかり理解しようと思いながら話合いを進めていくと,スムーズに話合いが進んでいくことへの気付きがあった。自分の思いを伝えるだけでは,合意形成できないということに児童らが気付き,相手の意見をしっかり聞く重要性について学ぶことのできた有意義な時間であったと考える。授業時間の中で,時間的な制約はあるが,時にはB校担任教員のように,今が「学びのチャンス」と思ったその機会を逃さず,一人一人の思いを聞き,児童の納得いくまで話し合わせることも大切だと考える。 このように,児童の葛藤の場面を想定し,その解決に向け児童同士が試行錯誤できるような教員の関わりが大切だと考える。 (2)学級の課題解決をテーマに取り組んだ実践 学級活動「学級の課題を解決するためにみんなが学級の課題に児童が向き合い,解決していく話合い活動の場には,児童が合意形成に向けて葛藤しながら試行錯誤する機会がたくさんあると考え,実践終盤に取り入れた。 B校児童は,学級活動や総合的な学習の時間のグループでの話合い活動の経験を積み重ねることで,自分たちは話し合えばどんなことでも解決できるという自負をもつようになった。しかし,何度か行った「みんな遊び」を考える話合いの機会には,何人かの意見で種目が決まってしまっていた。そして決まった遊びを行う際には,勝ちにこだわりすぎて,ルールが守れず喧嘩になって終わるという苦い経験があるため,何人かの児童には「話合いが上手になっても,遊びになると変わらないだろう」という落胆があった。それまでの話合いは,目的が「遊ぶ」ことであったため,みんな自分の好みで意見を述べ,児童同士の力加減の違い等で意見が決まってしまっていたことが要因だと考えられた。そのため,全員が課題を共有し,楽しめる遊びを二つ考えよう」
元のページ ../index.html#18