人工知能が○○できるようになった,△△の名人に勝った,そのようなニュースを毎年のように聞く。そして,そういった技術は当たり前のように,私たちの生活に入り込んでいる。 (1) 内閣府『Society5.0』https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html 2019.4.26 技術の進歩は社会の在り方そのものを変革させる。日本がこれまで歩んできた社会は狩猟社会(Society1.0),農耕社会(Society2.0),工業社会(Society3.0),情報化社会(Society4.0)だが,今日本が進もうとしているのはSociety5.0(1)と呼ばれる社会だ。IoT(Internet of Things)により多くのモノと人とがつながる社会である。サイバー空間に集められた情報(ビッグデータ)を人工知能が解析し,例えば渋滞を避けながら最も早く着く道順で車を自動運転したり,あるいは工場で人による指示の必要なくロボットを動かし客の注文通りに製品を作り続けたりする。IoT,人工知能,ロボット,ビッグデータの処理という先端技術があらゆる産業や社会生活に取り入れられ,経済発展を促し社会的課題を解決する,そのような社会を目指すことが内閣府によって提唱されたのである。そしてこの社会への変化は,技術の変化の影響を受けたものであり,技術進歩に合わせてもう始まっている。 このような社会において子どもたちに必要な資質・能力を育むために,プログラミング教育が始まることとなる。これまでも中学校の技術・家庭科や高等学校の情報科で扱われてきたが,小学校において必修化したということは,プログラミング教育で身に付けるべき資質・能力の重要性がこれまで以上に高まったということであろう。 本研究ではこのような現状認識に立脚し,小学校のプログラミング教育において,子どもたちにどのような力を育めばいいかをより具体的にしながら,学校現場においてより充実したプログラミング教育が行われるような手立てを提案したい。 小学校でのプログラミング教育必修化と聞いた時に多くの人が思い浮かべるのは,小学生がパソ小学校 情報教育 1 コンの前に座って,英語や数字の文字列(javaやC言語などのいわゆるプログラミング言語)を打ち込んでいる姿であろう。プログラミングのプログラムとは,コンピュータを動かす命令のことであり,その命令を作る作業をプログラミングというからだ。その姿を前提として,小学校でプログラミングの授業についていけるようにプログラミング教室に通わせる家庭が増えたというニュースや,小学校ではプログラミング言語を覚える必要はないといった批判を目にする。果たして,小学校で行われようとしているプログラミング教育が目指すのはそういった姿なのだろうか。違うとすれば,一体どのような姿なのか。1章では,プログラミング教育が小学校で必修化された背景とそこから読み取れる将来の子どもたちに必要な力を整理し,プログラミング教育がなぜ必要なのかを明らかにしていく。 第1節 求められた背景 小学校でのプログラミング教育必修化が議論されるきっかけとなったのは,平成25年の政府発表「日本再興戦略」において世界最高水準のIT社会の実現を目指すと宣言されたことであろう(2)。そこではIT(情報技術)を活用してよりよい生活が可能となる社会の実現を目指すことと,その実現のためにハイレベルなIT人材の育成と確保を推進することが示されている。また経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(3)により,2020年に36.9万人,2030年に78.9万人のIT人材が不足すると予測されたことも影響を与えていると考えられる。なお,「日本再興戦略」における世界最高水準のIT社会とは,先に述べたSociety5.0というビジョンとして内閣府により鮮明に打ち出されているものである。進化した人工知能が様々な判断を行ったり,身近なものの働きがインターネット経由で最適化されたりする社会である。その到来は,社会の在り方を大きく変えていくと予想されており,様々な課題に新たな解決策を見いだし,新たな価値を創造し,私たちの生活に便利さや豊かさをもたらすと期待されている。その主役となる人材として,IT人材の需要が高まったと言える。 ここでいうIT人材は2通りに分けられる。そのことを示す資料として,経済産業大臣が行うIT分野の国家試験である情報処理技術者試験の種類を図1-1に示す。 51 はじめに 第1章 プログラミング教育の必要性
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