74 とになる。プログラミング体験を先に行い,そこで行った「どんな命令を使うかを考えること」や「命令をどんな順番に並べるか考えること」がプログラミング的思考だと児童に伝え,ステップチャートでも示してみるといった流れの方が有効だったかもしれない。二つのやり方を比較検証してみないことにはどちらが有効であると言い切ることはできないが,今後プログラミング体験を先にする学習計画も検証したい。 (2)情報教育という視点 何年生から学習するか,どのような形で学習を始めるかも考えなくてはならない。現時点での仮説は,1年生からプログラミング体験を行うことが望ましいのではないだろうかというものである。 理由の一つは先述したように,プログラミング体験を先に行うほうが有効かもしれないからである。プログラミング的思考が発揮される場面は,1年生や2年生の学習にもある。それらをアンプラグドで行うのであれば,その前にプログラミング体験をしておいた方がいいということになる。 もう一つの理由は,プログラミング教育にはICTスキルが必要だからである。例えば,Scratchを使うだけでも,マウスによるドラッグ,データの保存,キーボードでの入力,半角入力など必要なスキルがある。それらのスキルが十分でない児童がプログラミング体験を行った場合,1時間の授業の中に「スキルの習得」と「教科の目標」の二つのねらいが混在してしまい,教員にも児童にも負担のかかる授業となってしまう。本研究における実践でも,コンピュータの操作に手間取ったり,トラブルの対処方法がわからなかったりして予想外に時間がかかってしまう場面は多々あった。そうならないためにも,1年時ではマウスを使ったドラッグ&ドロップ操作,2年時では数字の半角入力,4年時ではローマ字入力というように,各学年で少しずつICTスキルを育むことが望ましい。 なお,タブレットでもScratchの操作は可能だが,画面の大きさに合わせてブロックや入力スペースが小さくなることや,中学校や高等学校でのプログラミング教育への接続を考えると,PCでのマウスとキーボード操作に慣れておいたほうがよいと考える。 さらに付け加えると,低学年からのプログラミング教育により,児童にとってICTがより身近なものになるだろう。そのため,ICTの危険性に関する知識やマナーも同時に身につける必要がある。小学校 情報教育 24 (32)事前アンケートを取った後に本研究における一般化の定義を変更している。実践は本研究の定義に従って行われているため,アンケートでの一般化の項目に影響を与えないとし,結果では割愛している。なお,抽象化については事前アンケートの後にその定義の範囲を広げている。実践はアンケート実施時点の定義も含んだものになるため,抽象化については掲載した。 児童の発達段階に合わせて情報モラルの学習も系統的に進める必要がある。 つまり,プログラミング教育はそれ単体で行うのではなく,情報教育の一環であるという前提に基づき,ICTスキルや情報モラルと共に低学年から学習を進めることが大切だと言える。 情報教育の重要性は何も新しい学習指導要領から述べられているものではない。しかしながら,十分に行われてきていないのが現状だと感じる。プログラミング教育をきっかけに,もう一度,情報教育の視点でカリキュラムを構築することが必要ではないだろうか。 本研究を進めている間にも,ICT技術は着々と前進した。AI技術で業務改善,AIが〇〇をするサービスが登場と,我々がもうAIと共に歩み始めていることを実感せざるを得ないニュースがどんどん飛び込んでくる。 先日ある学校で,AIや5Gの技術がどういう社会をもたらすかについての動画を見て,技術の功罪について児童が考える授業を参観した。AIやAIを搭載したロボットが様々な仕事をしている様子を見た児童は,「便利」「すごい」と思った一方「AIが間違ったらどうするんだろう。」や「自分がなりたい仕事がなくなるかも。」と不安も感じていた。その不安を的中させるも,回避するも,これからを生きる彼ら次第である。そんな彼らを育てる教育活動の支えに,少しでもこの研究が役立てば幸いである。 最後に,日々の教育活動が大変忙しいにもかかわらず,本研究の趣旨を理解し協力してくださった京都市立砂川小学校と京都市立柊野小学校の校長先生をはじめ,研究協力員の先生方,温かく迎えてくださった両校の教職員の皆様,そしていつも全力で授業に参加してくれた子どもたちに心から感謝の意を表したい。 おわりに
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