プログラミング教育の授業においては,ぜひこういった児童の姿が大切にされてほしいと願う。 なお,構築したものを評価,さらに修正をしながらあきらめずに取り組む姿勢というのはアンプラグドよりもコンピュータを使ったプログラミング体験のほうが現れやすい。それは,正確な即時評価が起きるからである。例えば,筆算の手順をステップチャートに書いたとして,それが正しいかどうか客観的な判断はできない。思い込みで正しいと判断することもある。しかしコンピュータは,正しいプログラムでないかぎり,意図した通りに動かない。思い込みの入る余地なく,客観的にだれが見ても明らかに失敗だとわかる。だからこそ,すぐ修正せざるを得ない。こうして,「即時評価→修正」というサイクルが何回も繰り返されることになる。そのサイクルの中で思考した量が,達成感にもつながるだろう。コンピュータを使ったプログラミング体験の重要性を確認することができた。 第2節 可視化することが支援に 本研究の授業実践では,思考ツールのうちステップチャートを用いた。ステップチャートを用いて思考や手順を可視化することは,物事の構成要素の違いや共通点を見つけることの支援になる。共通点を見つけることは,それらを関連付けて捉えることにつながる。違いを見つけることは,個々の特徴を導き出すことにつながる。本研究においては,合同な図形を描く手順を可視化することにより,「辺や角度を合わせて三つを調べればよい」という共通点を導いたり,「合同な四角形を描く手順は合同な三角形を描く手順の繰り返しである」ことを気づかせたりすることにつながった。また筆算の手順を可視化することで,繰り下がりが増えていることや,繰り下がりが増えても手順は同じことの繰り返しであることなどに,視覚的に気づかせることができた。 また,見えることで話すきっかけになっている様子もうかがえた。例えば筆算の手順にしても,頭の中で考えて筆算をノートに書いているだけではプロセスは見えない。一続きになった長い文章の説明では読む気にならない。しかしステップチャートになっていると自分の手順と隣の席の友達の手順が異なることが一目でわかる。そこで自然と「なんでそうなったの。」「なんでかというと。」と対話が生まれる。相手を説得しようとするため,小学校 情報教育 23 既習事項をもとにした根拠を示すことにもなる。ステップチャートを使い思考や手順を可視化することは,児童が主体的に対話的に学ぶきっかけを生み出すといえるかもしれない。 さらには,表現の支援となった場面もあった。2年生では筆算の手順をステップチャートに整理する活動を繰り返し行ったが,多くの児童がステップチャートを描き,それをもとに説明できるようになっていく中,なかなか描けない児童がいた。しかし単元の終盤,2回繰り下がるひき算の筆算のステップチャートを自力で描き,友達に説明する時も自信をもって説明していた。今日の授業が楽しかったというので理由をきくと,「最初できなかったのに説明できたから。」と言っていた。なんとなくわかっているが,説明できないという児童は多い。ステップチャートを描くことは,それ自体が説明することの練習になり,順番や構成要素が明確になることで説明しやすくなるのではないだろうか。 本研究で確認されたステップチャートの効果を整理すると, ・違いや共通点を見つけることの支援になる。またはそういった思考を促す。 ・そのことにより,対話が生まれる。 ・表現することの支援になる。 となった。これらの効果を生かすことが,プログラミング的思考を働かせるだけでなく,教科の学びを確かなものにする一助になるのではないだろうか。 第3節 さらなる充実に向けて (1)プログラミング体験の重要性 本研究においては,アンプラグドでの学習,教科でのアンプラグドの学習,プログラミング体験という順番で行った。そして実践した授業時間数はアンプラグドの方が多い。先にプログラミング的思考がどんな思考かを学習し,それがプログラミング体験で生かされるという展開になっている。これは,筆者に「教材作成や準備の負担の少ないであろうアンプラグドでの実践を増やしたい」「児童のICTスキルが十分でない現状にあう実践をしたい」という思いがあったからである。 しかしこの学習展開だと,「正しく命令しないと動かない」というコンピュータの特性や,その特性を実感することで生まれる正しい手順や論理の必要性への気づきなしに,児童は学習を進めるこ73
元のページ ../index.html#25