001総教CR030517R1研究論文(木村)
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72 表4-7 A校2年生と5年生における 実現度についての事前事後比較(単位は%) している児童の割合が増加していることが見て取れる。ただし,抽象化については「わからない」が高いままであった。これは,抽象化について意識化する機会に恵まれなかったことに起因すると推察される。 次いで,プログラミング的思考を実際に行っているか,実現度についての変化を述べる。A校の2年生と5年生に行ったアンケートから,実現度について「そう思う」「大体そう思う」と回答した児童の割合の比較を表4-7に示す。 すべての項目について,「そう思う」「大体そう思う」と回答した児童の割合が増加していることがわかる。 これらの効果は,プログラミング的思考を可視化し,明示的な指導や価値付けによって意識化し,さらに有効性を実感できるような声かけを行ってきたからといえる。しかし,数値が上昇したことですなわち「プログラミング的思考は育まれた」とは言い切れない。上記アンケートはあくまで自己評価だからである。またアンケートに回答したのが授業実践直後であったことから,授業での楽しさや達成感がアンケート結果に影響をおよぼしていることを否定できない。本当にプログラミング的思考が育ち転移したかどうかは,他教科や日常生活での児童の姿を観察し,そこにプログラミング的思考が発揮されているかを見て取らなければならない。あるいは,ある問題場面を想定してどのように解決するかを問うようなテストを行う必要がある。上記アンケートで言い切れることは,児童がプログラミング的思考の5要素についてイメージができるようになったことと,「できている」と回答できるくらいに,各授業の中にそれらを発揮する場面があったということであろう。今回のように可視化し意識化する実践を繰り返すことで,転移するようになるのかもしれないという可能性を感じることはできた。また,転移したかどうか分解抽象化アルゴリズム的思考評価あきらめずに取り組む姿勢2年生(n=25)事前4.321.747.854.665.2小学校 情報教育 22 事後75.080.070.085.095.0評価する方法については例えばルーブリック評価が考えられるが,次年度での課題としたい。 (2)あきらめずに取り組む姿 再び表4-5,4-6,4-7のアンケート結果に目を通していただきたい。実は2年生においても5年生においても,そして有効性の実感においても実現度においても一番高い数値を示したのは,あきらめずに取り組む姿勢であった。これはこの研究を通して明らかになったプログラミング教育の成果である。第3章4節(2)で紹介した振り返りの内容からも,児童が何度も失敗,修正を繰り返して課題をクリアしたこと,そしてそのような体験を肯定的に受け止め,楽しいと感じていることが読み取れる。 実践後,5年生の児童にプログラミング教育の授業に関して,それぞれ楽しかったかどうかを尋ねたところ,ほぼ全員がどの授業も楽しかったと答えていた。一方,難易度について問うと過半数が「難しかった」と答え,「簡単だった」と答えた児童は,「整数」の授業について2名のみであった。多くの児童が難しかったと感じながらも楽しかったと感じていることがわかる。そのうち3名の児童を抽出し,楽しかった理由について聞き取り調査を行ったところ以下のような回答を得られた。 ・うまくいかないのを考えていったことが楽しかった。 ・難しかったけれど,自分で考えて,できたらどんどんわかっていく。 ・次はこうしようと,いろいろ目的を自分で作れるところ。すごく考えたことが自分のためになった。 難しかったのに楽しかったのは,児童が自分自身の力で考えてどう解決するかを決めることができ,さらにあきらめずに取り組んだことで課題を解決することができたからだとわかる。予想困難な時代にあっても自ら主体的に問題を解決する姿,学習指導要領で目指されている姿を感じることができるのではないだろうか。実践後の研究協力員へのインタビューでも,以下に示すような回答が得られた。 Q.プログラミング教育の成果はなんでしょう。 A.自分の力で何とかしようっていう姿勢がみえた。例えば今日の授業(三角形と四角形)でも,えんぴつくんが消えたとか,トラブルの解決についての質問はあったけど,四角形をどうやって書けばいいかという質問はなかった。 5年生(n=24)事後事前88.032.060.040.056.088.070.996.0100.066.6

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