ICTスキルの面に注目して観察できると考えたからである。 第2節 授業デザインシートを生かして 授業デザインシートは,教材研究の際に,授業中のどの活動においてプログラミング的思考が働いているのか,その活動が各教科での学びをより確実なものにすることにつながっているのか,確認するために使うものである。 本研究に協力してくれた研究協力員は,これまでプログラミング教育もScratchなどのプログラミング体験も行ったことがない教員たちである。研究の初期段階からプログラミング教育としての授業がうまくいったわけではなく,思考は働いたが教科の学びを確実にすることには至らなかった例もある。しかしながら授業デザインシートを活用しながら教材研究を一緒に行った結果として,プログラミング的思考を伴う活動が,教科の学びをより確実なものにした実践となった。 また,授業デザインシートを使ったことでプログラミング的思考の5要素を意識しながら授業をすることができたとの感想を,実践後のインタビューで得ることができた。以下に,その例を示す。 (1)思考を促す発問をした例 2年生「足し算と引き算のひっ算②」において,「65+78」という繰り上がりが2回ある筆算の方法を考える場面である。前時に「54+72」で百の位に繰り上がる筆算を学んでおり,その手順をもとに考えた。以下,左に前時の手順と右に本時の手順を示す(29)。 二つの手順の違いは,たった一つのブロックである。しかし,筆算はできており繰り上がりが増えたことを理解してはいたが,それを順序だててくらいをそろえてかく一のくらいの計算をする十のくらいの計算をする百のくらいに1くりあげるくらいをそろえてかく一のくらいの計算をする十のくらいに1くりあげる十のくらいの計算をする百のくらいに1くりあげる小学校 情報教育 13 説明しようとするとできない,あるいはステップチャートに表すことができない児童が少なからずいた。以下,指導者の発問と,自力解決後の集団解決の場面でのやりとりを示す。 下線①②が思考を促す明示的な発問である。既習の手順をもとにして(一般化),本時の問題解決に至るよう必要な動きを考えて(分解),正しい手順を構築する(アルゴリズム的思考)ことを促している。そして新しく「1繰り上げる」が増え,どこに付け足せばいいかを考えることを通して,下線③④のように繰り上がりについて繰り返し説明が行われていた。 結果,本時の理解を見取るための適応題は25名中24名できていた。またこのような実践を繰り返したことで,宿題の練習問題でも繰り上がりや繰り下がりのできない児童はいなかったということが,研究協力員への聞き取りからわかった。 (2)有効性を実感させた例 本節1項における実践では,類似性からパターンを見つけて他の場合にも使う一般化の有効性を実感させた場面があった。 T「これは昨日の図。①今日は昨日よりレベルアップしてるんやな。ということは。」 C「つけたす。」 T「①どこになにを。」 (自力解決) T「今日は②これが増えたよって気づいた人いる。」 C「どこに増えたかはわからん。」 T「どこに増えたかはわからんけど,どっかに増えたことは気づいた。」 C「あってるかわからんけど,『1繰り上げる』が増えていると思います。」 T「どこに繰り上げるんやろう。」 C「十の位に1くりあげる。」 T「どこに増えたん。」 C「1の位の計算をするの後だと思います。」 C「なぜなら,十の位の計算のあとに『十の位に繰り上げる』をすると,もう十の位は計算しているから,おかしいし。」 C「③一の位を5+8の計算してから,十の位に1繰り上げなあかんから。」 T「筆算と(図を)あわせながら説明できる。」 C「(前略)④一の位は5+8で計算をして13なので,十の位に1繰り上げます。」 63 図3-1 筆算の手順を表すステップチャート
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