60 自身の方略を評価したり,別の方略を考えたりするようにもなるだろう。そうして自分が選んだ方略で解決できたとき,その方略の有効性が実感される。 また,振り返りをする活動も有効である。単に楽しかったかどうかを振り返るのではなく,自分がどういう方略を活用し,どういう点で有効なものだったのか,あるいは有効でなかったのかをメタ認知させることになる。 ただし,新しい課題に取り組んだりじっくり振り返りをしたりする授業時間が確保できない場合もある。また小学生の特に低学年の児童の場合,ある方略がよかったと実感していてもそれを言語化できない場合がある。それらのような場合は,教員が「~したことで,より~できたね。」のように価値づけることも有効であると考える。 日本の小学校段階におけるプログラミング教育は,各教科の中で行われるものであり,まずその教科の内容に関する振り返りを行う必要がある。さらには,不慣れな教材を使ったことで授業時間に余裕がないことも考えられる。まずは,児童がプログラミング的思考を発揮した瞬間を教員が見逃さず,確実に価値づけることを目指したい。 (3)思考ツールの活用 プログラミング的思考をメタ認知させるには,どのような手立てが有効であろうか。明示的な指導を行うためには,思考を可視化することが有効である。そのために思考ツールを活用する。 思考ツールとは,「アイデアを可視化して考えを生み出したり,共有して協働的に考えたりすることを助けるツール」である(26)。関西大学初等部では,思考スキルの習得・活用を目指す学習が開発・実践されており,児童は,対象とした六つの思考スキル(比較する,分類する,関連付ける,多面的に見る,構造化する,評価する)をそれに適した思考ツールと対応付けて習得し,様々な授業場面で活用している。この学習のプロセスは,どう考えるかを明示的にしながら方略として習得,他の場面で活用するという,まさにメタ認知を育成・促進し思考スキルを転移させるものである。そこでは「思考スキルを課題に合わせて活用する姿が確認された(27)」,「多くの児童が思考スキルの理解とそれに対するメタ認知的知識を習得している(28)」,といった一定の成果を得ていることから,プログラミング的思考の一部を明示的にするために思考ツールを用いて可視化することは,その転移に有効であると考える。 また,すでに述べたように,教員からの指示が明示的であることも重要である。思考ツールを使えば明示的になるのではあるが,思考ツールを使うことが不適切な場合もあり,そのような場合には,教員が,どう考えるのかを具体的に指示する必要がある。このことは第2章1節3項で述べたように,考えることが苦手な児童への支援にもなる。さらに,視覚優位の児童にとっては図にすることでイメージしやすくなる,説明する時の足掛かりになるなど,思考を可視化することは複数のメリットを生むであろう。 なお,このように思考ツールを用いることなどを通して行うコンピュータを使わないプログラミング教育は,アンプラグドと呼ばれている。 (4)本研究の構想 ここまで述べたことを整理し表したものとして,本研究の構想を図2-7に示す。 プログラミング的思考の一つ一つの要素は,なにも真新しいものではない。学習指導要領に示されている通り,情報活用能力であり論理的思考であるから(しかしあくまで計算機科学の流儀で考えることなので,論理的思考のすべてではない。),部分的にはこれまでの学習でも育まれていたものであるし,日常的に散見するものでもある。しかしながら,無意識的に使っていたり部分的に使ったりしているので,必ずしも問題解決場面で有効に働いているとは言えない状況なのかもしれない。 授業デザインシートを活用することで,教員はプログラミング的思考を意識し,授業構想を練り,児童にどう考えさせるかを具体的に考えやすくなる。そのことで,児童がどう考えればよいか,ど 図2-7 本研究の構想 小学校 情報教育 10
元のページ ../index.html#12