た。選択制給食の利点は,保護者や生徒がそれぞれの健康状態や生活の状況などを考慮し,家庭から弁当を持参するか給食を申し込むかを選択できることである。月毎に申込をすることができるため,保護者が多忙な時期は給食を利用し,弁当を作る時間がある時期は家庭からの弁当を持参させるなど,それぞれの都合に合わせることができる。このような選択制給食の特徴を踏まえた上で,本市の中学校における食育の課題を述べる。 課題の一つ目は先述した選択制給食の利点を生かしきれていないことである。本来ならば,給食を申し込むか家庭からの弁当を持参するかの二つの選択であるが,給食を申し込んでいない生徒の一部は登校途中にコンビニ等で購入したであろうおにぎりや菓子パンなどで昼食を済ませている。成長期にある中学生の昼食がおにぎりや菓子パンのみでは,必要な栄養が不足したり,栄養バランスが崩れたりする恐れがある。また,このような昼食が続くことで成長や健康に影響を及ぼす可能性もある。昼食に何を食べるかを保護者や生徒が選択する際には,様々な状況を鑑み,適切な選択をすることが望まれる。 一方で,給食を申し込んでいる生徒は栄養バランスの良い昼食をとることができているかというとそうではなく,嫌いなおかずがあれば平然と残し,好きなものしか食べていない様子が見られる。小学校のように自校調理ではないため,作っている人の顔が見えづらく,作っている人への感謝の気持ちをもったり,伝えたりする生徒の意識が低いことも残食に影響があると考える。また,食器を返却する際には完全に蓋をした状態になるため,何をどれだけ残したかを他の人に知られることがない。このような状況の中でも昼食指導をしている教員は生徒の実態を把握し,適切な指導をするよう努めなければならないが,給食を申し込んでいる生徒全員への指導ができていない学校もあるだろう。 家庭からの弁当を持参している生徒,給食を申し込んでいる生徒,それぞれに課題があるが,いずれにせよ成長期に必要な栄養が不足しないよう,しっかりと食べることが大切である。 また,学校給食は食に関する指導を効果的に進めるため,給食の時間はもとより各教科や特別活動,総合的な学習の時間等において活用することができる,「生きた教材」としての役割がある。しかし,給食を食べていない生徒にとっては実感を伴えず,「生きた教材」としての効果が薄れてしま中学校 食育 3 う。また,指導をする教員が学校給食の食材や献立に様々な工夫があることを活用しきれていないという実態もあり,学校給食を効果的に活用する方法を模索しなければならない。 課題の二つ目は時間の問題である。中学校では昼休みに委員会活動や係の集まりがよくあるため,対象生徒は昼食を急いで食べ,昼食時間終了のチャイムと同時に教室を出ていく。移動教室や体育の着替えなどで昼食開始が遅れた日は昼食をかき込むように食べていたり,時間がないため全部食べられなかったりすることもある。とはいえ,昼食時間が長ければ良いというわけではない。昼食時間を長く設定することで,午後からの学校教育活動に影響が出たり,早く食べ終わった生徒の対応をしなければならなかったりすることが予想される。教職員だけでなく生徒自身も準備を手早くするなどの工夫をし,今設定されている昼食時間の確保に努めなければならない。 課題の三つ目は教科等の時間に継続した指導が困難であるということである。家庭科や保健体育科,社会科等,食に関する内容を取り扱う教科はあるが,3年間を通して食に関する内容を取り扱う教科はなく,継続した指導が難しいという状況にある。食育を通して望ましい食習慣を身につけさせるためには,日常生活の中で継続して行うことが必要である。各教科等において食に関する内容を取り扱うことは大切だが,それだけに頼ってしまうと継続した指導にはならない。教科で学んだことを日常生活で確認し活用するような機会を増やし,生徒が食について考える時間を継続的に作らなければならない。 これらの課題を解決するためには,全教職員が生徒の課題を共通認識し,食育を推進する意識をもつことが必要である。これまでにも食育を意識的に行っている教職員はもちろんいるが,岸田ら(10)は,中学校における食育実践の現状として,家庭科教員や養護教諭などの一部の教職員しか食育に関わっておらず,指導体制づくりや教科間連携が十分に行われていないと述べている。本市における食育実践の現状は,上記に同じとは言い切れないが,似たような傾向の学校もあるように感じる。そこで,本研究では学校全体で取り組む食育の推進のあり方について研究を進める。 79
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