①生きる上での基本であって,知育,徳育及び体育の ②様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を このように,食育基本法においても食育は栄養指導だけにとどまらず,生きる力や豊かな人間性を育むものであると明記されている。 1970年代から1990年代にかけて,食品の輸入が増加し,外食産業が発展した。また,ライフスタイルの多様化も相まって,日本の食生活は大きく変化し,「飽食の時代」と呼ばれるようになった。現在,日本で暮らす多くの人が食べる物に不自由なく生活することができているであろう。しかし,その一方で,「飽食」であるが故に起こる問題も散見される。食品ロスや食料自給率の低下などはそのうちの一つであり,これらの問題を少しでも改善するために,多くの自治体や企業などが様々な取組を行っている。 では,世の中に多くの食べ物が溢れているこの時代に,私たちが身に付けなければならない力とはどのようなものだろうか。それは,「食品を選択する力(=食選力)」であると考える。何も考えずにただ好きなものだけを食べるのではなく,自分の体や健康のことを考えて食べるものを選択する力を身に付けることは,飽食の時代を健康に生きるためには欠かすことのできないものである。食べたいものをいつでも手に入れることができるのは大変便利ではある。その中で,私たちはいろいろな判断をしていかなければならないのではないだろうか。 近年,核家族化が進み,共働き世帯が増加する中で,子どもが一人で食事をとる「孤食」が問題となっている。孤食では,偏食をしても指摘されることがない。また,早食いや過食,食事のマナーについても同様である。本来,これらのことは家族で食卓を囲み,会話をしながら食事を楽しむ中で指摘されたり,マナーについては学んでいったりするものである。しかし,家族が揃って食事をすることが難しい家庭もあることは否めない。どのような状況であっても,好きなものだけで食事を済ませることがないようにするためには,一人一人が食選力を身に付け,中学生のうちから考えて食べる習慣を身に付けることが望ましい。 そこで,本研究では,食べるものを選択する際に必要となる知識の定着を図り,その知識を自身の生活で活用する中で,生徒の食選力の向上を目指した。特に,中学生の時期は成長期であり,勉強や運動を活発に行うため,栄養バランスのとれた食事をとることは非常に大切である。そのことを生徒自身がしっかりと理解し,自分のために何を食べるかを考えて選択するこ基礎となるべきもの 選択する力を習得し,健全な食生活を実践することができる人間を育てること 中学校 食育 1 77 はじめに とが心身の健康,そして充実した学校生活を送ることに繋がると考える。 第1章 食育の必要性 第1節 国民運動としての食育 (1)食育の位置づけ 「食育」という言葉は明治時代,西洋医学・栄養学批判を展開した石塚左玄により明治30年頃造られた言葉である。その後,石塚の主張に共感した村井弦齊が「食道楽」(村井弦齊著・明治36年)を報知新聞紙上にて連載し,「食育」という言葉は人々に知られることとなった。その中で「食育」は単なる肉体的な健康維持を意図するものではなく,精神的満足や心の豊かさ,社会的な健全性を育む役割も担うものであるとも考えられている(1)。 現在でも「食育」という言葉自体は広く人々に知られており,これまでにも食育を推進するため,食品安全委員会,文部科学省,厚生労働省,農林水産省などが中心となって様々な取り組みを進めてきた。また,地方公共団体や民間団体においても,自発的な食育への取り組みが行われてきた。 その中で,平成17年6月10日,第162回国会で食育基本法が成立し,同年7月15日から施行された。この法律が制定された目的は,国民が生涯にわたって健全な心身を培い,豊かな人間性を育むことができるようにするため,食育を総合的,計画的に推進することにある。食育基本法には,「食育」が次のように位置づけられている(2)。 食事をとることにより脳に栄養が運ばれ,脳の働きが良くなり,学習効率の向上に資する。また,アスリートが食事をトレーニングの一環として捉え,食事を管理したり,サポートするスタッフとして管理栄養士に協力してもらったりするのは,食事が運動に及ぼす影響が大きいためである。 これらのことからも食育は,生命維持や健康
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