このような意識を指導者がもつことで,生徒の中で点として存在している知識を,線となるようにつなぎ,生徒にとって生活に生かされる知識として習得できるようにする。 (2)生活に近い場面設定の中で知識を活用 生徒が習得した知識を日常生活で活用できるようにするために,授業やワークシートの問題等で意思決定をさせることを行う。その際に,生活に近い場面を設定し,その中で知識を活用させ,意思決定をさせるようにする。 第1章第2節(2)(p.4)で述べた理科の例は,生活に近い場面設定の中で知識を活用する体験に当たる。運動の程度や頻度は個人により異なるが,多くの中学生は運動をする機会があるだろう。生徒が今後の生活で体験するであろう,あるいはこれまでの生活で体験してきた場面設定の中で,習得した知識を活用させることで,生徒にとってより意味のある学びとなる。 奈須は,「知識というものは,それがどのような場面でどのような理由により使えるのか,(中略)学んでいなければ,およそ活用が利かない,つまり転移しない」と述べている(15)。つまり,この知識はこのような場面で活用することができるということを,生徒がある程度知っておく必要があるということではないだろうか。授業の中ではあくまでも疑似体験ということになるが,様々な疑似体験を積み重ねることにより,知識を活用することの有効性を実感することができると考える。そうすることで,生活の様々な場面で食について考えることができるようになるのではないだろうか。 また,生活に近い場面設定をすることにより,食について考えることを自分事としてとらえさせることにもつながると考える。生活の中で食について考える場面が少ない生徒もいるだろう。そのような生徒にとって,生活の中のこのような場面で食について考えることができるということを知り,自分の生活とのつながりを感じることが必要であると考える。 (3)食選力の視点を明確にさせる 先に述べたように,既有知識と学習内容をつなぎ,生活に生かされる知識を習得させたり,その知識を活用させたりする中で,生徒に自分がどのように考えたのかを自覚させることが必要であるこれらの原理を取り入れた授業展開の工夫を行う。 なお,本研究においては「有意味学習」を「既有知識と学習内容をつなげる」,「オーセンティックな学習」を「生活に近い場面設定の中で知識を活用させる」,「明示的な指導」を「食選力の視点を明確にさせる」とし,研究を進めた。 (1)既有知識と学習内容をつなげる 食べることは生きるために必要な行為であり,生徒は今までの生活経験から食についての多くの知識をもっている。しかし,奈須が言うように,これらの既有知識は,不正確であったり,断片的であったりすることが多々ある(14)。 例えば,「朝食をとると,勉強に集中できる」といったことを聞くことがある。実際に朝食をとる利点の一つにこのようなことが挙げられている。では,その理由と,どのような朝食が良いかを説明できる生徒はどのくらいいるだろうか。答えとしては,朝食をとると,脳にブドウ糖が供給されることで,集中力や記憶力が向上する。また,脳のエネルギー源であるブドウ糖は炭水化物からとることができる。したがって,朝食にはご飯やパンなど炭水化物を多く含む食品をとることが望ましいということになる。 多くの生徒は「ご飯やパンはエネルギーになる」という知識をもっている。その既有知識と「朝食をとると,勉強に集中できる」という知識を統合させることで,朝食をとる意義や望ましい朝食について,理解を深めることができるだろう。 そして,家庭科で学習する「ご飯やパンは炭水化物を多く含む食品である」という内容や,理科で学習する「炭水化物は体内で消化酵素の働きによりブドウ糖に分解される」という内容と,既有知識をつなげることを,指導者が意図的に行う。例えば,生徒の知識を引き出すような発問をしたり,ワークシートに生徒の答えを書かせるだけでなく,なぜそう考えたのかという理由を明確するよう促したりする。 先に,朝食にはご飯やパンなど炭水化物を多く含む食品をとることが望ましいと述べた。朝食に何を食べればよいかを考えることは家庭科の学習ではあるが,その理由を突き詰めていくと,理科の学習とつながってくる。例えば,「炭水化物は体内で何に分解される?」という発問をすることで,理科の知識を引き出し,理科の学習とのつながりを生徒に感じさせることになるだろう。 中学校 食育 5 させる 35
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