◇心身の成長や健康の保持増進の上で望ましい栄養や ◇食べ物を大事にし,食料の生産等に関わる人々へ感 ◇食事のマナーや食事を通じた人間関係形成能力を身 ◇各地域の産物,食文化や食に関わる歴史等を理解 表1-2 トマトの比較例 価格 個数 198円 1個 298円 3個 好や価格を重要視している傾向にあった(7)。もちろん,これらの項目を重要視することは食べるものを選択する際に大切なことである。しかし,これらの項目だけでなく,自身の健康や食事を共にする人のことなど,より広い視野で食事について考えることが適切な食品選択につながると考える。 では,中学生がこれまでの生活経験から培ってきた,食べるものを選択する際の視野を広くするには,どのようなアプローチが有効なのだろうか。中山らは食に関する諸課題について,「生徒に一つの視点からでなく,他の視点からも考えることを意識させることで,食品選択における多様な意思決定が見られた」と述べている(8)。食に関する諸課題と自分たちの食品選択とのつながりや影響を考えさせることで,食品選択の際の新たな視点が加わり,多様な意思決定につながったと考えられる。 このように,指導者が食について多面的・多角的に考えさせることを生徒に意識的に行うことで,食べるものを選択する際の視野が広がることにつながるのではないだろうか。 また,野田は一人一人の選択・購買行動について,「あふれる情報の中で,各自が何らかの価値判断基準をもち合わせていないと情報選択・行動が難しい」と述べている(9)。食品についての情報があふれ,似たような商品が販売されている中で,どのような視点で食べるものを選ぶかということが明確になっていなければ,適切な意思決定をすることが困難となる。 例えば,スーパーでは同じ種類の野菜でも,国内で生産されたものと海外から輸入されたものが陳列されていることがある。その際,どのような視点で選ぶかによって,意思決定が異なる場合がある。表1-2にトマトの比較例を示す。 産地 国産 外国産 この場合,価格という視点で,1個当たりの価格が安い方,いわゆるコストパフォーマンスを考えて選ぶと,外国産のものを選択することになる。一方で,鮮度という視点で考えると,収穫されてから店頭に並ぶまでの時間が短い方,つまり国産のものを選択することになる。また,環境という視点で,フードマイレージ(食品の輸送が環境に与える負荷の大きさを表す指標)を考えると,輸送距離の短い国産のものを選択することになる。 これはあくまでも一例ではあるが,食品についての情報や知識をもとに,どのような視点で選択するのかを明確にすることで,根拠のあるより適切な選択になると考える。 よって,本研究で目指す視野の広い食選力の定義を,「食についてより多面的・多角的に考え,根拠をもって食べるものを選択する力」とする。1年次の研究で行った栄養バランスについて考えることは,私たちが健康な生活を送るためには重要な視点である。それだけでなく,食事を共にする人のことを考えたり,体調に合わせたりするなど,様々な視点から考え,その中から状況に応じた視点で意思決定をすることが,より適切な選択につながるのではないだろうか。 (2)本研究の構想 「食に関する指導の手引-第二次改訂版-」では,食に関する指導において,食育の視点は以下の六つとされている(10)。 食育の視点 ◇食事の重要性,食事の喜び,楽しさを理解する。 これらを見ると食育は,栄養バランスを考える力のみならず,情報活用能力,人間関係形成能力など,様々な資質・能力を育むものであることがうかがえる。 本研究では,この食育の六つの視点を踏まえ,状況に応じた適切な選択をするため,視野の広い【食事の重要性】 食事のとり方を理解し,自ら管理していく能力を身に付ける。【心身の健康】 ◇正しい知識・情報に基づいて,食品の品質及び安全 性等について自ら判断できる能力を身に付ける。【食品を選択する力】 謝する心をもつ。【感謝の心】 に付ける。【社会性】 し,尊重する心をもつ。【食文化】 中学校 食育 3 33
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