最終稿【今川】
4/22

32 その知識を活用する力の育成を目指した。また,栄養バランス等を考えることを自分事としてとらえさせるために,食選力チェックシートの活用を行った。チェックを通して,今の自分にできていることとできていないことを可視化することにより,生徒が具体的な行動目標を設定したり改善策を考えたりすることにつながった。 生徒会活動においては,食育の視点を取り入れた取組を行った。食育放送では,昼食時間に食と健康に関する放送を行い,生徒の食に対する意識の向上を目指した。また,朝食調査では,朝食の必要性を理解し,自身の朝食及び食生活を改善しようとするきっかけとなることを目的とし,朝食に赤・緑・黄の食品を食べているかどうかを五日間調査した。 実践後,生徒及び教職員を対象とした事後アンケートを行い,食に対する意識や行動の変容を見取った。 (2)研究の成果と課題 これまでに述べた実践の結果,生徒の食に対する意識が向上し,行動に結び付いている様子が見られた。中学生は家庭の中で,自分でできることが増えてきてはいるが,食生活については保護者に頼っている部分が多く,「与えられる立場」にある生徒が多いことが予想される。そのような中でも,自分でできることを考え,行動に移している生徒がいることを,事後アンケートやワークシートの記述より読み取れた。 そして,教職員の食育に対する意識の向上が見られた。食育を推進する上で,何か新しいことを考えるのではなく,日々の学校教育活動に食育の視点を取り入れることを示した結果,「忙しいから食育ができない」と感じている教職員の割合が減少した。また,学級通信や部活動指導など,様々な教職員がそれぞれの立場から,あらゆる方法で生徒へ食に関するアプローチをしている姿が見られた。このように,少しずつ食育への理解が得られ,教職員の意識の変容につながった。 上記の成果が見られた一方,課題も見られた。それは,食べるものを選択する際の視点として,栄養バランスに関することのみでは不十分な点があったということである。栄養に関することを根拠に食べるものを選択することは,心身の健康には非常に大切なことである。しかし,食べるものを選択する際の視点はそれだけではない。私たちは日常生活の中で,多くのことを考えながら食べ 中学校 食育 2 るものを選択している。例えば,誰と食べるかという相手意識や食事にかけることのできる費用,食事をとる時間帯などが挙げられる。 先に述べたように,中学生の食生活は,保護者に頼っている場合が多く,「与えられる立場」にある生徒が多いことが考えられる。体健室調査より,「学校がある日,朝・昼・夕を準備する人は誰ですか」という設問に対し,「自分」と回答した生徒は朝17.8%,昼4.3%,夕2.4%という結果であった(6)。この結果からも,中学生が何を食べるかを自分で決定する場面はそれほど多くないことが予想される。 しかし,大人になると,そうはいかないであろう。親元を離れる時期は人それぞれ異なるが,いずれは自分の食生活を自分で管理しなければならないときが来ることには変わりない。 社会に出ると,様々な都合で食事をとることができなかったり,外食が続いたりすることもある。また,誰かと食事を共にする機会も増えるであろう。このような状況になったときに,「今日は時間がなくて朝食が食べられなかったから,昼と夜はしっかりと食べよう」「最近,外食が続いているから食費を抑えよう」「今日は東京から来る会社の上司と食事をするから,京野菜のおいしいお店に行こうかな」など,状況に応じて適切な選択をすることができれば,より豊かな生活を送ることができるのではないだろうか。 また,家庭をもつと,自分だけでなく家族の食生活を管理する立場になる可能性もある。そうなった際にも,様々なことを考えながら,状況に応じて適切な選択をする力が発揮されるのではないだろうか。 第2節 本研究で目指す生徒像 (1)視野の広い食選力とは 1年次の研究の課題を踏まえ,2年次の研究における食選力の定義を,より広い視野に立ってとらえ直す。では,視野の広い食選力とはどのようなものだろうか。 藤田らは家庭科教育について,日頃から問題意識をもって自らの食行動を考えさせる教育が必要であるとし,改善すべき点として,生徒が商品選択をする際の意識項目を増やすことを挙げている。中学生が食品選択時に重要視している項目の上位は「味」「量」「価格」「見た目」であり,自らの嗜

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る